「経営戦略」をいかに定義するか

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なぜ、同じ「経営」をテーマとしながらも、経営の実務と学問としての経営戦略の間には、これほどまでに大きな隔たりが存在するのか。本連載では、長く実務の世界に身を置きながら、学問としての経営学を探究し続ける、慶應義塾大学准教授の琴坂将広氏が、実務と学問の橋渡しを目指す。第2回は、「経営戦略」という言葉の定義に関する議論を通して、実務と学問の間に存在するギャップの一因を明らかにする。

 いったい、「経営戦略」という言葉は何を示すのだろうか。

 経営戦略は、同床異夢の巣窟である。どちらも経営戦略について議論しているはずなのに、実際は、相手が自分と違う前提をもとに議論していることが多々ある。

 本記事では、その「ズレ」の原因になっている「経営戦略」の多義性を議論する。まず誰もが認める、経営戦略の骨格ともいえる要素を抽出する。そして、見解が多岐にわたる具体的な要素に踏み込みたい。そのうえで、実務家の視点から見た経営戦略の課題にも言及しよう。

経営戦略の多様性

 経営戦略は極めて広範な学術分野であり、経営に携わるすべての人間が、何らかの関わりを持つと言える。そのため驚くべきか驚かざるべきか、それを一言で表そうとしたとたんに、多様な表現が提示される(表1参照)。

表1:「戦略」の定義の例

 上記はあくまで例の一部にすぎず、これ以外にも無数の定義が乱立している。これが、経営戦略とは何かという問いに対する答えを掴みにくくする要因であろう。

 戦略論の大家である、ユタ大学のジェイ・バーニー教授は、「戦略について書かれた本の数だけ戦略の定義は存在するといっても過言ではない」(ジェイ・バーニー『企業戦略論 基本編』ダイヤモンド社、2003年、p.28)と言及している。事実、私が図書館で関連文献を洗い出した際にも、一つとして統一された定義に出会うことはなかった。

 なぜこれだけの異なる表現が乱立し、それが一つに収束することがないのか。それは、これらすべての定義が間違っているとはいえず、また一つの定義が他の定義を否定することもほとんどないからであろう。

 総論としての経営戦略のあり方について、それぞれが他者を否定することはほとんどない。しかし各論としての戦略を語り始めると、互いのズレが顕著に現れ始めるのが現実である。総論同意・各論異論の状態なのだ。

 こうした状況を指して、一橋大学の沼上幹教授はこう記している。

「『環境の機会と脅威に対応して、自社の強みと弱みを、時間展開の中でマッチングさせていくパターン』というような抽象的な言葉のレベルでは、強調点の相違がある程度存在するにせよ、それほど議論が分かれることはない。しかし、具体的なレベルに下りようとすると、(中略) 見解が多岐に分かれていく。」

(沼上幹『経営戦略の思考』日本経済新聞出版社、2009年、 p.3)

 経営戦略の定義をつかむためには、まずそのズレがほとんどない骨格部分と、ズレが存在する周辺部分に切り分けて考える必要がある。それはすなわち、誰もが同意できる経営戦略の基本的な定義と、異論も存在する新領域・先端領域に関する定義である。

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