手書きのビジネスモデルで
自社の「コア戦略」を再発見せよ

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企業は成長とともに、複雑化という病を患う。「一時的競争優位」の提唱者マグレイスが、それを解消するために、4つの要素に基づく選択と集中の方法を説く。


 成長する企業は、お決まりの問題に直面する。時とともに事業があまりに複雑化して、自社がその悪影響を被ってしまうのだ。

 私が見るところ、この現象に陥る企業はたいてい、競争優位のライフサイクルにおける「利益化(exploitation)」フェーズの只中にある。つまり、事業の立ち上げとスケールアップに成功した後、利益や市場シェアを拡大し、享受する段階だ。ベイン・アンド・カンパニーのクリス・ズックとジェームズ・アレンも、先頃のHBR論文「創業者精神を取り戻せ」の中でこの問題を論じている。

 堅調でほぼ予測可能な利益にぬくぬくとしながら、新たな制度を次々に導入し、さらなる儲けを引き出す数々の手法を開発する。その過程で会社は顧客と乖離していき、ジェフリー・ムーアが提唱した「コア」(競争優位につながる差別化要因)に直結する活動が減っていく。代わりに「コンテキスト」(ノンコア)にばかり捕らわれ、敏捷性を失う。自社の領域の外で起きている事象よりも、内側の世界のほうが重視されるようになる。こうして、気づけば会社は強みを失っているのだ。

 厄介なのは、これが一夜にして起きるわけではないことだ。経営陣は自社に持続的な競争優位があると信じたまま(常に危険な考え方だ)、官僚主義のまん延と意思決定の硬直化を許してしまう(拙著『競争優位の終焉』でも詳述)。

 この現象を防ぐのがいかに難しいかを、ノキアの例で考えてみよう。

 この会社は長年にわたって成功の典型とされ、企業幹部と研究者の両方から称賛を集めていた。同社に関するケーススタディと論文は、ビジネススクールの書類棚を丸ごと占めるほど多く書かれてきた。私自身、2006年発表の論文でノキアの社内ベンチャーの手法を称賛している。

 2007年に同社のCEOは、『フォーブス』誌の表紙をこんな見出しとともに飾った。「ノキア:10億人超えの顧客を擁する携帯電話の王に、追いつく企業はあるのか」。自分たちは実にうまくやった、と経営陣が確信していたのも無理はない。

 しかしこの2007年は、iPhoneが発売され、アンドロイドが商用リリースされた年である。世界中に展開していたノキアだが、その後米国では見る影もなくなる。携帯電話機市場の支配者だった間に培われた同社の傲慢は、通信会社から嫌われた。

 こんな話を聞いたことがある。ノキアではある時期、「プレゼンによるマネジメント」の文化がまん延し、3Mの調査を受けるに至ったという。プレゼン用のスライドに使うアセテートフィルム(3M製)の購入量があまりに多いため、なんと転売の可能性を疑われたのだ。

 やがて私は、ノキアのよからぬニュースを耳にし始める。某スター研究者は同社を辞める時に言った。ここにはもう創造性を発揮する余地は残っていない。投資利益率を明らかにしないまま、予算とポストを減らしている――。私が称賛してやまなかった社内ベンチャーのプロセスは、実質的に廃止。それに取って代わったのは、短期的な成果を追求し数字を重視するグループだった。

 同社の方向性を心配した人々は他にもいた。イブ・ドーズ(INSEAD教授)とミッコ・コソネン(ノキアの元シニア・バイスプレジデント)が2008年に発表したケーススタディによれば、ノキアの戦略は長年「ローラーコースター」のように柔軟だったが、アップル現象によって携帯電話機事業が破壊される直前には、その特長は失われていたという。

 その後の展開はよく知られている通りだ。2010年にオリペッカ・カラスブオがトップを追われる。新CEOに就いたスティーブン・イーロップは、有名な「バーニング・プラットフォーム(足元に火がついている)」と題した従業員向けメモで全社に奮起を呼び掛けた。明らかに一発逆転を期した最後の賭けとして、イーロップはマイクロソフトとの提携にこぎつける。しかし奏功せず、やがて携帯電話機事業を丸ごと売却する準備を始めた(2014年に完了)。

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