労働時間を減らして、成果を高めるのです。

伊賀泰代氏に聞く「働き方改革」の本質【第1回】

1

「働き方改革」に欠けている視点は何か。マッキンゼーの元採用・人材マネジャーで、新刊生産性を出版する伊賀泰代さんに、その本質について伺うインタビュー。第1回は、週休3日の導入を検討したヤフーの狙いから話を伺いました。

休みを増やすことで、成果は上がる?

編集部(以下色文字):いま「働き方改革」が盛んに言われています。伊賀さんはこの流れをどのようにご覧になっていますか。

伊賀泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント。兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにて、コンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年より独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。2012年に『採用基準』を出版、2016年11月26日に2冊目の著書『生産性』が発行される。

伊賀泰代(以下略):今求められている「働き方改革」には3つの側面があります。

 ひとつは国全体として人口減少や労働力不足にどう対応していくかという問題。ふたつめは企業経営の観点から、旧来の長時間労働モデルをいかに脱し、かつ企業価値を上げていくのかという話。そして最後が個人の働き方の問題で、どうやってワークライフバランスを実現するか、という話です。それぞれ異なる課題に見えますが、解決の鍵はどれも生産性の向上にあります。

――国全体の労働力不足の話では、外国人労働者を増やすことや高齢者と女性の就業率アップが政策として上げられていますが、これも生産性の問題ですか?

 それらも最低限必要ですが、日本は今後50年で4500万人も人口の減る国なんです。今でも毎年27万人、25年後からは毎年100万人ずつ人口が減っていきます。毎年そんな数の外国人労働者を増やすことは不可能だし、女性や高齢者の数だって限定的です。早晩、生産性を上げないと回らなくなります。

――週休3日や副業OKの会社なども話題になっていますが。

 週休3日制導入の意味は、「これまで5日かけてやっていた仕事を4日で終えられるようにしよう」ということです。当然、無駄な仕事を止めたり、自動化やAI化をさらに進めるなど、積極的な生産性向上策が検討されると思います。

 同時に休暇が1日増えれば、自己投資や新しい経験を得るために使える時間が増えて創造力やイノベーションにもいい影響がありそうです。「急成長のためには長く働くのが当たり前」と思われそうな業界で、ヤフーのように影響力の大きな企業が率先してこういった制度を打ち出したのは素晴らしいと思います。

――労働量を減らしても成果が上がると思いますか?

 思いますよ。働く日を5分の4にしようとすると、コスト効果の低い仕事は止める必要がでてきます。いままで漫然と続けていた仕事も「本当に必要か」「もっと効率的にできないか」と考えることで、仕事全体の生産性が上がるはず。

 増えた休みに関しても、パートナー任せにしていた子育てにより時間を使ってみたり、思春期の子供と話す時間を増やしたり、もしくは話題のお店やサービスを体験してみることで、新たな気づきが得られることも増えるでしょう。それらも含め、新しい仕事を創っていくためにプラスになると期待されていると思います。

 それにこういう発想は、生産性への理解がないと思い浮かびません。普通の企業は、社員数や社員の労働時間を増やして業績を高めようとします。仕事の成果が労働投入量に比例していると考えていては、こういう施策は打てません。

――もともと日本企業の常識は、インプットを増やしてアウトプットを増やす。小売店の営業時間もそうやって伸びてきたと思います。

 今まではたしかにそうでした。戦後の日本は「安くて勤勉な労働力」を売りにして経済成長を始めました。でも途中から製造業は、その人件費を機械に置き換えて大幅に生産性を高めたんです。

 ところがサービス業やホワイトカラーの仕事に関しては、これまでは働く時間を延長することでしか売上げは伸ばせないと思い込まれていて、だから小売店の営業時間もどんどん延びてきた。

 それが最近は人手不足が甚だしいので、生産性の低い時間帯は店を占めようとするお店が現れ始めました。人口減少は日本にとって、生産性を高めるよい機会になると思います。

――いまだに遅くまで働いて頑張っている人や毎日きちんと就業時間に会社にいることが評価されたりする企業も多いと思いますが。

 産業構造が変わっているのに、職場の規律や常識が昔のままだからです。たとえば工場であれば、ラインが動き出す時間に誰かひとりでも欠けていたら仕事にならない。だから何が何でも決められた時間に出社しろということになる。営業の仕事でも、ネットのない時代であれば連絡事項は朝会で伝えられる。だからみな、その時間にはオフィスに揃っている必要がありました。

 でもいまはネットもあるし、多くの仕事は朝オフィスに全員が揃わないと進まないわけでもありません。それなのに豪雨でも大雪でも、電車が事故で動かなくても全員に出社時間を守らせる。「台風警報が出ていたので、電車の遅延を見越して3時間早く家を出て就業時刻に間に合った!」なんて話が自慢話になるなんてあまりに時代遅れです。1日に3時間も無駄にして、なにを威張っているのか。

次のページ  過去の成功体験が忘れられない日本企業»
1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking