日本企業はいかに「明日の成長」を実現するか

ブルー・オーシャン戦略の提唱者チャン・キム氏が語る

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『ブルー・オーシャン戦略』は2005年に発行後、世界で350万部を売り上げるベストセラーとなった。その提唱者であるチャン・キム氏に、10年ぶりに改定した『[新版]ブルー・オーシャン戦略』の内容や、日本企業の課題を聞いた。(撮影:鈴木愛子、取材会場:ワークスアプリケーションズ主催 COMPANY Forum2016)

ブルー・オーシャンに必要なのは「整合性」と「刷新」

――切り開いたブルー・オーシャン(競争がなく新規需要に満ちた新市場)を維持するのは難しく、多くの企業が再びレッド・オーシャン(血みどろの競争が展開される市場)に飲み込まれます。ブルー・オーシャンを維持することは可能なのでしょうか。

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W・チャン・キム
INSEADブルー・オーシャン戦略研究所(IBOSI)の共同ディレクターであり、同校ボストン・コンサルティング・グループ・ブルース・D・ヘンダーソン講座教授(戦略論および国際経営)を兼ねる。欧米、アジア太平洋地域の数々の多国籍企業において、取締役や顧問を歴任。欧州連合(EU)の諮問委員を務めるほか、数カ国から顧問に任じられている。世界経済フォーラムのフェローも務める。The Thinkers50の第2位。

 ブルー・オーシャンを創造すると、当然、模倣者が出てきます。多くの模倣者が出てくると、そこはレッド・オーシャンへと変わってしまいます。そこで2つの疑問が出てくるわけです。1つ目が、「では、どのようにしたら、長期的に利益を保ち、成長を維持しながらブルー・オーシャンに留まることができるのか」。そして、2つ目は、「いつ、どのようなタイミングでブルー・オーシャンから次のステップへと移るのか」ということです。

 まず、ブルー・オーシャンで利益を維持するためには、3つのポイントがあります。1つ目が顧客にとっての魅力的な価値をもたらすこと。2つ目が企業にとって盤石な利益を維持するということ。3つ目が従業員や事業パートナーを適切に処遇し動機付けること。この3つの「整合性」がきちんと保たれることで、他社の模倣が難しくなり、ブルー・オーシャンを長く維持できます。

 たとえば、顧客にとっての価値は模倣できたとしても、事業パートナーをきちんと動機づけられなければ、同じような製品やサービスを提供することは難しいでしょう。また、特殊な企業文化を持っている場合や非常に従業員のモチベーションが高い場合も、模倣は困難になります。

 つまり、模倣するのが難しければ難しいほど、ブルー・オーシャン内で自分のポジションを維持することが可能になります。たとえば、10年のような長期にわたって維持することも可能です。しかし覚えておかなければならないのは、ブルー・オーシャンは遅かれ早かれ、いずれレッド・オーシャンになるということです。つまり、切り開いたブルー・オーシャンを継続的に「刷新」する必要があります。

 では、刷新するタイミングはいつなのか。それを判断するために必要なのが、戦略キャンバス上の価値曲線です。『[新版]ブルー・オーシャン戦略』でも述べましたが(注1)、戦略の特徴を表す価値曲線が、競合他社のものと同じようになってきた場合、そのタイミングがまさにブルー・オーシャンがレッド・オーシャンになってしまった瞬間、つまり新しいブルー・オーシャンへと移らなければならない瞬間と言えます。

――ブルー・オーシャンを切り開く製品やサービスは、市場に一番乗りしたものとは限りません。iTunesはオンライン・ミュージック・ストアの第1号ではありませんが、ブルー・オーシャンを創造しました。ブルー・オーシャンを切り開くために、スピードよりも重要なことは何なのでしょうか。

 最初に利益そのものをあげた人こそ、ブルー・オーシャンを切り開いたと言えます。市場を開拓する一番手であることは条件ではありません。

 iTunesはご承知のとおり、アップルが開設したオンライン・ミュージック・ストアです。このデジタル音楽市場に最初に参入したのは、iTunesではなくナップスターでした。ナップスターは、違法な音楽ファイルの共有を加速させましたが、顧客には愛されていました。つまり、顧客にとっての魅力的な価値は創りだすことができていたのです。しかし、音楽会社と著作権絡みの話をきちんとつけることができず、自分たちの利益を創出することには失敗します。結果、2003年に破産します。市場に真っ先に参入し、一大センセーションを巻き起こしたにもかかわらずです。

 アップルはナップスターのこの状況をきちんと見ていました。マーケットイノベーターではありませんでしたが、バリューイノベーターとして、きちんと各社とよい関係を築くことに成功しました。たとえば、音楽の配信から得た収入のうち一定の割合を、音楽会社にきちんと入るようにして、理解を取り付けました。つまり顧客の価値、それから関係各社のモチベーションの確保、この2つの整合性を確保できたのです。

 先ほどの話と重複しますが、顧客にとっての魅力的な価値をもたらすこと。企業にとって盤石な利益を維持するということ。従業員や事業パートナーを適切に処遇し動機付けることという、3つの整合性を保つということが重要です。最初に市場に参入することが、必ずしも成功裏に終わるとは限りません。

――ブルー・オーシャンを創造できるのは、バリューイノベーターということでしょうか。

 イノベーションには3つの種類があります。1つ目が、最初にその技術を開発するテクノロジーイノベーション。2つ目が、最初に市場に参入するマーケットイノベーション。3つ目がバリューイノベーションです。バリューイノベーションでは、iTunesの事例のように顧客への価値の提供、それから企業への利益の提供、そして関係各社へのモチベーションの提供の3つが重要になってきます。

 日本では、テクノロジーイノベーターやマーケットイノベーターを指して、イノベーターという言葉を使うことがあります。もちろん彼らが成功した事例もあります。ただし、ブルー・オーシャンが指しているイノベーターは、3つ目のバリューイノベーションを起こしている人たちです。一番にバリューを創ることができた人こそが、ブルー・オーシャンを創造したということが言えると思います。

 テクノロジーイノベーターであったコダックはうまくいかず、バリューイノベーターであったキヤノンのほうが成功しました。そしてマーケットイノベーターだったナップスターがうまくいかず、バリューイノベーターであったiTunesが成功したというわけです。

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