リーダーの能力は
仕事の「大きさ」より「複雑さ」で磨かれる

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有望人材を、なぜ経営人材に育てられないのか。それは、1つの部門や職能に安住させ、変わりゆく複雑な環境にさらし続けないからである――。エゴンゼンダーで経営人材の発掘・保持に長年携わる著者による提言。


 私は、これまでのキャリアで膨大な時間を費やし、世界中のビジネスリーダーたちと対話し、その言葉に耳を傾けてきた。

 何千人もの管理職候補者を面接し、晴れて採用されたマネジャーたちのパフォーマンスを追跡した。経営人材コンサルティング会社のエゴンゼンダーでは、グローバルベースでのマネジメント評価プラクティスを統括。そしてハーバード・ビジネススクールを含む学術機関では、人が与えられた仕事で成果を上げるには何が必要かについて、協働者たちと長年にわたり研究してきた。

 こうした経験から、私はある重要な教訓を得た。最も成功するリーダーは、学習と成長を続ける者である。その際、自分自身やチームの学習と成長を促す最善の方法とは、「より複雑な仕事」を経験することなのだ。

 私は数年前、エゴンゼンダー東京オフィスの荒巻健太郎氏とともに、日本の上級役職者について2つの要素を採点した。1つ目は「潜在能力」だ。いまより大きな任務と責任を担う能力(高まりゆく変化と複雑性に適応し、自分を成長させていく能力)を、当社コンサルタントが客観評価した。

 2つ目は「コンピテンシー」(求められる役割での成果を予測するための、具体的な特性とスキル)。当社が用いる8つの指標(戦略志向、市場に対する洞察力、顧客への影響力、結果へのこだわり、リーダーシップ、協働し巻き込む力、など)を客観評価した。これらの点数を、当社のデータベースにある世界中の上級役職者の平均点と比較した。

 すると、非常に奇妙なことが明らかになった。日本のプロフェッショナルは、「潜在能力」では世界平均を上回っていたにもかかわらず、「コンピテンシー」では下回っていたのだ。

 日本の教育機関や日本文化独特の労働倫理のおかげで、日本のマネジャーは、キャリアの開始時には有利な立場に置かれる。ところが日本企業のほとんどは、その後に人材育成プロセスを継続的に提供しない。日本の典型的なリーダーは、1つの会社、1つの部門で昇進を重ねていく。通常、そのポストでの年齢と在任期間が最長になる頃に昇進するので、その順番を謙虚に待っている。

 最近、当社でこんな事例があった。東京に本社を置き多角的に事業を営む某グローバル複合企業で、現職CEOの後任にふさわしい人材が1人も見つからなかったのだ。

 この企業はさまざまな産業と市場で事業を展開しており、数々の戦略的課題があるため、本来ならば経営幹部を育成するうえで理想的な場であるはずだ。ところが評価対象の上級マネジャー12人のうち、複数の事業部門で働いた経験があるのはたった1人しかいなかった。また、海外での勤務経験は12人の平均でわずか1年。彼らの英語力は非常に限られていた。要するに、誰もCEOの後任候補にふさわしくなかったのである。

 惜しまれるのは、彼らのキャリアのスタートは申し分なかったということだ。誰もが工学を修め、研究開発や製品戦略、マーケティングの分野で平均20年以上の経験を積んでいた。しかし、その潜在能力は活かされてこなかった(経営者としての能力が磨かれなかった)のである。

 響きのよい肩書きと高い給料を伴う「大きな仕事」を与えるだけでは、より優れたリーダーになるわけではない。より「複雑な仕事」こそが人を成長させるのだ。

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