アルゴリズムで
ホテル客の隠れたニーズを解き明かす

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高級ホテルグループ、ドーチェスター・コレクションの顧客体験ディレクターが、ビッグデータ解析の活用経験を示す。顧客の声を気にしてサービスを平凡化させるのではなく、いかに差別化要因を発見するかがポイントだ。


 私がメティースの生みの親に出会ったのは、2014年の夏、ロサンゼルスでのことだ。それは共通の友人が引き合わせてくれたことで実現した。ギリシャ神話に登場する叡智の女神、メティス(Metis)にちなんで名づけられた彼女は、当時は発明されたばかりだった。

 彼女の正体は、ビッグデータ解析のツールである。いまでは顧客体験に関する専門知識で強化されており、人工知能(AI)と同じとまではいかないが、それに近い能力を持つ。そして、ブリティッシュアクセントで話す。

 メティースの生みの母であるカイル・リッチーと、共同創業者のデイビッド・リッチーは、高級サービス事業(ホテル、小売り、ファッション、プロスポーツ等)を対象に、ブランドを特徴づけるサービス基準の開発を支援している。最高級ホテルを運営するドーチェスター・コレクションの、グローバル顧客体験およびイノベーション担当ディレクターである私は、その取り組みに興味をそそられた。抱えている問題を解決するのに、メティースが一役買ってくれるかもしれないと思ったからだ。

 その問題を端的に言えばこうなる。顧客の嗜好や体験について、ミステリーショッパー(覆面調査員)、オンラインレビュー、ソーシャルメディア、ブログ、そして格付け会社から膨大なデータが収集される。その量はいまや、いかなるビジネスにとっても(私の業界も含めて)、検証するにはあまりに巨大すぎて手に負えない。

 しかも高級セグメントにおける成果は、顧客の期待を予測したうえでそれを超えることにかかっているので、この状況は問題である。顧客の反応を精緻に把握できない現況で収集されるデータは、高級市場を「サービスの標準化」に向かわせている。そして標準化は、ラグジュアリーをコモディティに変える。それは、高級志向の顧客が欲するものとはまさに対極なのである。

 自動車、宝石、ホテルのスイートルームなど購入対象が何であれ、高級志向の顧客は特別感を欲している。他者と同じような体験はしたくない。だが、もしもほとんどのスイートルームに冷えたシャンパン1本が備えてあり(実際にそうだが)、どこの高級ホテルにもミシュランの星を獲得したレストランがあるなら(パリの四つ星と五つ星ホテル11軒のすべてが実際にそうだ)、どうなるだろう。宿泊客は「自分だけのために創出された、特別なものを体験している」と感じることができるだろうか?

 この難問の解決に、メティースが力を貸してくれるかもしれないと私は考えた。顧客データの深層へと分け入って、当ホテルグループを特別な存在にしているものは何かを教えてくれないだろうか。我々の強みは何か。改善点はどこにあるのだろうか。

 私はカイルとデイビッドに、メティースを訓練するのを手伝いたいと申し出た。当時、メティースはまだテキストの分析を学習している最中だったが、そこに私の経験と経営上の知見を提供することを提案したのだ。こうして私は、製品開発諮問委員会のメンバーに加わった。

 それから2年弱が経った2016年3月23日、メティースはドーチェスター・コレクションの幹部30人を前に、フィルム上映付きでプレゼンを行った。場所はロンドン、グループ名の起源となった町にあるザ・ドーチェスター・ホテルのクリスタルスイート。彼女はオンラインでやり取りされた何百万もの言葉を理解・分析してきた。

 メティースはまず、朝食について取り上げた。

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