金融危機後に変わった
ハーバード・ビジネス・スクールのカルチャー

対談【前編】:
藤川佳則(一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授)×
山崎繭加(『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』著者)

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ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)が5年連続で開催している人気授業、日本の東北におけるフィールド・スタディ「ジャパンIXP(Immersion Experience Program)」の企画を中心的に担ってきた山崎繭加さん。ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのかを上梓した記念に、HBSの卒業生でもあり、現在はビジネススクールで教える立場にある藤川佳則・一橋大学大学院国際企業戦略研究科(一橋ICS)准教授を迎え、従来HBSが得意としてきたケース・メソッドとの違いやフィールド導入の背景について語り合います。

HBSも受講生も企画者である山崎さんも
とにかく羨ましい、の一言に尽きる

藤川佳則(以下、藤川):今年7月、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)に世界中のビジネススクールから教員が集まり、教育手法や学習効果について学び合うプログラム「GloColl(Global Colloquium on Participant-Centered Learning)」に参加する機会を得ました。ご著書『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』で書かれている、HBSが標榜する新たな学習のフレームワーク「Knowing(知識)」「Doing(経験)」「Being(自身を知ること)」、その中核をなす「ケース・メソッド」、そして、新たに導入された「フィールド・メソッド」についてまさに学んできたところです。僕はずっと以前からこのプログラムに参加したかったのですが、長年の夢が今年ようやくかないました。

山崎繭加(以下、山崎):藤川先生はHBSの卒業生でもあり、ケース・メソッドで教えるのも非常に上手でいらっしゃるから、わざわざHBSのトレーニングに行く必要がないと一橋ICSが判断してきたんでしょうね(笑)。

藤川佳則(ふじかわ・よしのり)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科(一橋ICS)准教授。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、消費者行動論。一橋大学経済学部卒業。同大学院商学研究科修士。米ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得、米ペンシルバニア州立大学大学院でPh.D.(経営学)を取得。ハーバード大学経営大学院研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(コンサルティング)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科専任講師を経て現職。

藤川:従来のケース・メソッドについては、教わる側としても教える側としても、おそらく通算すると何千回もやってきました。なので、KnowingやDoingについては、セルフ・ラーニングではありますが、かなりやってきた実感がありました。しかし、今回は、GloCollが標榜する「教えることの真髄に迫るには、学ぶことの真髄を究めること(how best to teach really is about how best to learn)」を通じて、まさに教員としてのBeingについて学ぶことができました。

山崎:すばらしい。

藤川:7月にGloCollに参加し、8月に帰国したところ、山崎さんから本書ご上梓のご連絡をいただきました。不思議な縁のようなものを感じます。お世辞ではなく、今日のためにしっかり読み込んできましたよ。読みながら、僕が真っ先に感じたのは、もう、とにかく羨ましい。学生の立場から見ても、学びの機会を提供する教員としても、山崎さんがこのプログラムで果たしてこられた様々な役割についても、何もかもすべてが羨ましい!の一言に尽きます(笑)。

山崎:ありがとうございます(笑)。

藤川:このジャパンIXPを企画されて、しかも具体的なインパクトを感じられるというのは、まさに人と人をつなげたいという山崎さんの「Being」の結実ですよね。HBSが「Knowing」や「Doing」だけでなく、学生に「Being」の気づきを得て欲しいと願っている点を、ご自身が体現されていると思いました。

山崎:すごい、褒めすぎです(笑)。

藤川:この本はいろいろな視点から読めますが、僕自身もこの一橋ICSでフィールド・プログラムを企画する立場にもあるので、特に企画者だからこその視点や、準備期間中の大変さ、実施期間中の細やかな気配りなどについて共感するところが多かったです。あとは、僕はこの本の監修者でジャパンIXPの担当教員でもある竹内弘高教授の弟子でもあるので、竹内教授に関わるエピソードなどはその場の雰囲気や空気感を含めて鮮明に想像することができました(笑)。特に、本書でも述べられているように、HBSはオペレーションの細かい部分について、神は細部に宿るというポリシーですし、竹内先生も細かな点を積み重ねて大きな成果を出すことを重視される方なので、その企画を支えるご担当者としては本当に大変だっただろうなと思いを巡らせながら読み進めました。

山崎繭加(やまざき・まゆか)
元ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) 日本リサーチ・センター アシスタント・ディレクター。マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端科学技術研究センターを経て、2006年よりHBS日本リサーチ・センター勤務。主にHBSで使用される日本の企業・経済に関するケース作成、東北を学びの場とするHBSの2年生向け選択科目ジャパンIXPの企画・運営に従事し、2016年8月末で退職。このほか、特任助教として東京大学医学部にてグローバルヘルス・アントレプレナーシップ・プログラムの運営・教育に関与。東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。

山崎:そう言っていただけて光栄です。私の立場は、なかなか共感していただきづらいというか、実際に同じようなことを経験された方にしか分からない部分もあります。そこをあんまり出さないつもりで書いたのですが、にじみ出てしまっているところを読み取っていただけたのは個人的に嬉しいですね(笑)。

藤川:これを読むと、毎年のプログラムの内容も、東北の現地の変化に応じて、進化してこられたことがよくわかります。

山崎:そうですね。受け入れる東北の現場はどんどん未来に向かって変革している段階に移行しているのに、ハーバードの学生たちが、悲惨で可哀想なところへ助けに行くんだという気持ちで来てしまう、そういうギャップがあると、学生にとっても学びにならないし、東北の方たちにとっても有難くないですから。その年ごとの東北の状況に応じてテーマも活動内容も変えてきました。近年はアントレプレナーシップと変革を基軸にしています。

藤川:山崎さんの役割がそれを可能にしたのだと思います。こういうプログラムにありがちなこととして、初年度ある程度うまくいくと、それがひとつの型のようなものになって、翌年度以降その型を繰り返し踏襲して実施してしまいますよね。人気のあるプログラムならなおさら、学生側は前年度の評判を聞いて集まるし、実施側もなんとなく「巡航速度」でオペレーションを回したほうが安心。ジャパンIXPが進化してきたことの背景には、変化の大きな東北を学びの場としていること、企画側が変化に貪欲というか積極的であること、もあるのでしょうね。

山崎:そうですね。もし学びの場が東京であれば、ある程度不変のものもあるので、定番のプログラムを回していく方法をとったと思います。

藤川:変化し続けるからこそ、このジャパンIXPが、ほかの国で開催されるIXPプログラムともさまざまな点で異なるのですね。竹内教授が「あとがき」でジャパンIXPならではの特徴を10点も挙げておられたように。

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ケース・メソッドでも想定されていた
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