ジャーナリズムが存続するための
暗中模索とイノベーション
――書評『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する本連載。第37回はニューヨーク市立大学大学院ジャーナリズム学科教授のジェフ・ジャービス氏による『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』を紹介する。

 

ジャーナリズムと民主主義は危機にある

 新聞や出版、テレビなど従来のマスメディアは経営的に苦境に陥っている。これが本書の出発点である。評者も出版メディアに身を置くものとして実感する。

 苦境の理由は、従来のマスメディアが独占していた「希少性」が失われつつあるからだ。新聞や出版物の誌面、テレビの放送時間は有限である。そこで発信できる情報(記事も広告も)には限りがある。

 限りあるものを多くの人が欲しがることで、希少性が生まれ、希少なものの価値が高くなる。経済の道理である。希少価値をもつマスメディアは、高利潤を得ることができた。

 しかし、インターネットが状況を一変させた。ネットで伝えることができる情報量は無限に近い。技術革新と起業家により、誰もが安価あるいは無料で、情報を発信して受信できるようになった。希少性が消滅しつつあるのだ。

 したがって、従来のマスメディアは独占利潤を急激に減少させている。閉鎖したり吸収されたりするメディアが増え、この動向はしばらく続くと予想される。

 欠陥はあるものの、社会にとって大切なことを伝えたり権威をチェックしたりするジャーナリズムは、主にマスメディアが担ってきた。このままマスメディアが衰退すれば、ジャーナリズムと民主主義の存続が危うくなる。

 こうした状況で、著者は、いかにしてジャーナリズムが存続していくか、を探っていく。著者のジャービス氏は『シカゴ・トリビューン』など複数のメディアで長く記者・編集者として活躍し、さらにアドバンス・パブリケーションズのオンライン部門の社長などでメディアの経営にも携わっている。ジャーナリズムの世界をさまざまな面で経験した上での、ジャーナリズムの生き残り策の模索である。

 その基本は、日本語タイトルの通り「稼げるか」であり、方向性は原書タイトルの通り「GEEKS BEARIG GIFTS」(贈り物を持ったギーク<卓越したIT知識を持つ者、ITおたく>)。原書タイトルは、ギリシア神話に登場する「トロイの木馬」を贈ったギリシア人(GREEK)を文字っている。

 古代の戦争で、ギリシア人は多数の兵士を内部にしのばせた木馬を贈り物と偽ってトロイ人を打ち破った。これと同様に、「ギークがIT活用で情報入手を無料化して贈り物をしたように見せかけているが、それは罠で、いずれ高くつく」と大手マスメディアの経営者は警告を発した。これに対して、ジャービス氏は、ギークはメディアにチャンスをもたらしているというのだ。

 ギークを拒んでいるだけでは勝機はない。ITによるジャーナリズム界の変容を現実のものとして受け止めたうえで、イノベーションを生み、新しいビジネス環境に見合った成功モデルを確立しなければならないと説く。

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