ユニリーバはなぜ、
ECベンチャーに10億ドルを投じたのか

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消費財の定期購入モデルがますます普及しているが、それは米国の髭剃り市場でも同様だ。その代表的企業ともいえるダラーシェーブクラブを、ユニリーバが10億ドルという巨額で買収した。その背景と真意は何か。


 伝統的企業であるユニリーバは、2016年7月、ダラーシェーブクラブ(Dollar Shave Club)を10億ドルで買収した。2012年創業の血気盛んなこのスタートアップは、カミソリのサブスクリプション(定額制・定期購入)サービスを月額最低3ドルで提供している。短期間で45人のエンジニアチームと320万人の会員を擁するまでに成長した企業だ。

 今回の買収は、ベンチャーキャピタルから投資を受けているEC企業の案件としては、史上4番目の規模となる(英語記事)。そして、消費財企業がデジタルのビジネスモデルをうまく確立できるかが問われる事例でもある。

 この買収案件には、興味深い事実がたくさんある。ユニリーバが支払った金額は、ダラーシェーブクラブが今年見込んでいた売上高の5倍である。また、アナリストの評価額はそれよりはるかに低かった。投資情報会社ピッチブックによれば、ダラーシェーブクラブの直近の投資ラウンド(2015年11月のシリーズDで9070万ドルを調達)では、評価額は6億3000万ドルであった。

 ダラーシェーブクラブはカミソリ市場で成長してはいるものの、そのシェアはまだ微々たるもので、低い利益率で運営している。同社のチームはITエンジニアリングの能力に秀でているが、品位には欠ける(訳注:同社は創業初期、共同創業者兼CEOマイケル・ダブリンが出演する、挑戦的でユーモラスなプロモーション動画で注目を集めた。参照動画)。そして、いまだに黒字化していない。

 ではなぜ、伝統的な消費財企業が、消費財というよりハイテクの分野に属するような企業を買収したのだろうか。それには3つの説明が考えられる。

1.ブランド・ポートフォリオの補強

 これは最近のユニリーバにおける、製品カテゴリーとブランド再編のパターンに即したものである、というのが最も自然な説明だ。同社は近年、明らかにパーソナルケア分野での成長を重視し、利益率の低い食品などの事業を切り離す戦略を総合的に展開している。このポートフォリオの転換は、2015年、S&PとMSCIの指数で同社の分類が「加工食品」から「パーソナル製品」へと変わったことにも反映されている。

 ユニリーバのインサイト/パーソナルケア担当バイスプレジデントであるチェット・ヘンダーソンによると、メンズグルーミング(男性の身だしなみケア)は、同社の最大の成長牽引分野であるという。ここには売上絶好調のダヴMen + Careシリーズの他、アックスやクリアといった複数の有力ブランドがある。調査会社テックナビオの市場分析によれば、世界のウェットシェーブ(電動ではなくT字カミソリによる髭剃り)製品の市場は、2020年には314億ドルに達するという。

 しかしながら、この市場にはダラーシェーブクラブの他に、もっと有力な買収候補がいた。特に目立っていたのは、カミソリ分野のナンバー2メーカーであるエッジウェルだ。エナジャイザー・ホールディングスからの分離後、どこかに買われるのではと巷間ささやかれていた。

 エッジウェルの売上高の6割は、カミソリ(シック)とシェービングクリームからなる。過去数ヵ月の株価低迷も、買収対象としては好材料だった。同社の知名度は新興国市場でも高いため、大きな成長機会をもたらしてくれる。事業の大部分を新興国市場で展開するユニリーバのような企業にとっては、なおさらだ。実際、投資情報紙『バロンズ』の以前の記事では、ユニリーバの理想的な買収候補としてエッジウェルが名指しされているのである。

2.破壊者を吸収

 ダラーシェーブクラブは、破壊的イノベーション理論の興味深い実例である。収益性が高く性能が過剰に供給されている業界に、ローエンドから参入しているからだ。このようなライバルを比較的小さいうちに吸収しておこう、と既存企業が考えるのは不自然ではない。

 市場調査会社スライスインテリジェンスによれば、髭剃り製品のオンラインでの市場は、2013年5月時点ではほぼゼロに等しかった。しかし、ダラーシェーブクラブが生み出した勢いによって、1年で2億6300万ドルに成長したという。破壊は、ハイテク業界では特にだが、さんざん喧伝され誤解もされている概念だ。しかし、消費スピードが速いわりにビジネスモデルの進化は非常に遅い消費財業界では、比較的珍しい現象である。

 とはいえ上記の理由をもって、小さなプレーヤーに対するこれほど高額のプレミアムを正当化するのは難しい。相手はどれだけ破壊的であっても、そのビジネスモデルは利益率が低く、既存企業から客を奪うゼロサムゲームに徹している。時期を考えるといっそう不自然だ。現在ユニリーバは、全社戦略として、高利益率を重視したカテゴリーとブランドの再編に注力している。破壊者への対策という動機のみによる買収であれば、控えめにいっても株主に混乱を与えることになる。

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