成熟市場では
ベンチャーこそチャンスがある

——スペースマーケット代表取締役・重松大輔 

2016年10月11日・12日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、東京で最後の「ワールド・マーケティング・サミット」が開催される。全国の貸しスペースをマッチングするスペースマーケット代表取締役である重松大輔氏も登壇者の一人だ。シェアリング・エコノミーの概念を実践し、不動産業界に風穴を開ける重松氏に話を聞いた。インタビューは全2回。(構成/加藤年男、写真/引地信彦)

大企業はまったく怖くない

重松大輔(しげまつ・だいすけ)
スペースマーケット 代表取締役
1976年、千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。 2000年、NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。 2006年、当時10数名のフォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。ゼロから立ち上げたウェディング事業は現在、全国で年間約3万組の結婚披露宴で導入されるサービスまでに育つ。2013年7月、東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の貸しスペースをマッチングするスペースマーケットを創業。

編集部(以下色文字):重松さんはNTT東日本に就職され、フォトクリエイトに移られたのち、会議室や宿泊施設などの空きスペースを仲介するスペースマーケットを立ち上げられました。この事業にどのようなチャンスを見出されたのでしょうか。

重松大輔(以下略):アイデアを思いついたのは、いまから3年前でした。前職のフォトクリエイトでIPO(新規株式公開)に立ち会ったとき、次は一から自分で事業を起こしてみたいという気持ちがムクムクと湧き上がってきたんですね。ただ、その時点ではまだ、どんな事業を手掛けるのか考えていませんでした。

 そこで、米国のベンチャーキャピタルのYコンビネータやファイブハンドレッド・スタートアップスが投資しているビジネスをまとめているサイトを片っ端から調査して、面白そうだと感じたアイデアを100個ほど挙げてみました。すると、シェアリング・エコノミーとオンデマンド・エコノミーのサービスが非常に多く、まだ日本では確立されていないサービスも多かった。そのとき、この分野の成長を予感したのです。

 空きスペースに注目したのは、前職での経験からでした。フォトクリエイトは、一般の人が参加するさまざまなイベントの写真を撮影し、被写体となった人に買ってもらうというビジネスでした。そのときに痛感したのがベニュー、つまり場所が持つ価値の大きさです。

 たとえば、おじさんたちの草野球大会でも、甲子園と河川敷では写真の売れ行きがまったく違う。甲子園では毎年、マスターズ甲子園といって元高校球児が集まる大会が開かれます。そのときの写真はものすごく売れる一方で、河川敷での大会の写真はまるで売れません。

 また、そうした場所が有効に活用されていないことにも気づいていました。前職ではウェディングのビジネスも立ち上げましたが、どこの結婚式場でも平日は開店休業状態で、「何とかなりませんか」という相談をよく受けていました。当然、会場は高級感もある立派な場所です。そこが平日にガラガラというのはあまりにもったいない。

 一方で、自分たちの会社のセミナースペースはどうかといえば、土日はいつも空いていました。それならば、平日の採用活動やセミナーは結婚式場で行い、土日の会合やイベントは会社のセミナー会場を使ってはどうだろうか、と。とにかくベンチャー企業でしたから、コストはできるだけ削減する必要がありましたからね。そこから、いまのビジネスの基本的な発想が生まれました。

 御社では会議室や結婚式場ばかりでなく、映画館や野球場、都心のバーベキュースポットまで幅広く扱っているのが特色です。彼らも同じような課題を抱えていたのでしょうか。

 空きスペースにもさまざまな分野があります。たとえば、映画館も平日の午前中などはお客さんがほとんど来ないので、もともと法人相手に貸し館をやっている映画館などもありました。彼らは飛行機や旅館などと同じビジネスモデルですから、値段は多少安くても、とにかく稼動させることが大事なのです。

 そうした目で世間を眺めると、いろいろなスペースがシェアの対象にできることがわかりました。たとえば、飲食店でも夜は和食の居酒屋、昼間はラーメン屋というところがあった。ラーメン屋のマスターに聞いてみると、「本当は単独で店をもちたいけど保証金が高くていきなりは難しいので、昼間だけ借りている」と言っていました。なるほど、それならこのスペースも「ありだな」と。このように多くの「ありだな」が重なった結果、いまのかたちになりました。

 調べてみると、海外には特色あるスペースを貸す企業がすでにあり、成功もしていました。たとえば、米国のイベントアップという会社は、イベントスペースのマーケットプレイスをつくって、マリリンモンローの家が借りられるなどと打ち出していた。また、リキッドスペースという会社では、ミーティングスペースのマーケットプレイスを行い、一般の会社が自社の会議室などを貸し出していました。

 日本はどうかというと、会議室の検索サイトはいくつもありましたが、どこも検索サービスの提供にとどまり、アマゾンや楽天のように、ワンストップでブッキングから決済までできるサービスを展開しているプレイヤーはほとんどいませんでした。それならば、自分たちが新たにやる以上は決済までやると決め、それを実行しています。

 もう一つ、地方の空き家や古民家の活用そのものにも魅力を感じていました。地方を訪れると、趣のある素晴らしい古民家がたくさんあります。そこを利用したビジネスモデルを確立できれば、地方創生という文脈でも勝負できますし、過疎化や高齢化という社会問題を解決する一助にもなると考えたのです。

 貸し手の側には、空きスペースを有効活用するという意識はあったのでしょうか。たとえば、都内オフィスの空室率は高いながら並行して新築物件は増えている印象もあり、不動産業界にはあまり馴染まない考えのようにも思えます。

 たしかに、従来の不動産収益に対する考え方は、長く契約してもらうことで収益を上げる仕組みを前提に成り立っています。それはそれで安定したビジネスではありますが、時間貸しの駐車場やラブホテルのように、時間単位で切り売りしてスペースを有効活用するという発想もありました。

 たとえば、東京の六本木駅近くの駐車場は、月極めの場合は月8万円程度ですが、時間貸しにすると月30万円稼げる場所もある。実際に、時間貸しの駐車場ビジネスは急激に伸張しています。不動産でもシェアハウスが登場してきましたし、小分けにして販売するビジネスがこれから伸びると思いました。

 また海外に目を向けると、貸し会議室からスタートした米国大手のリキッドスペースも、いまはオフィスのシェアを進めており、デスク一つ分のスペースを1週間単位から扱っています。これは従来の不動産活用の常識とは逆の発想であり、まだ未開拓の日本でそれを行えば、そのビジネスチャンスは非常に大きいと考えました。

 重松さんのアイデアを提案した際、貸し手の最初の反応はいかがでしたか。

 私自身が思っていたより、反応は悪くはありませんでした。もともと使われていない場所で、かつ成果報酬でもあるため、場所を貸す側にはリスクもありませんからね。初期はホームページもつくっておらず企画書だけでのプレゼンだったのですが、前職でお世話になったウェディング関係者や知人を通じて、映画館の責任者や古民家の所有者、お寺やお化け屋敷などを回ることから始め、いい感触を得られたと記憶しています。

 同様のマッチングサービスを展開する企業は、これから増える可能性もあると思います。そのとき、御社の優位性はどこにあるとお考えですか。

 当社は、コンセプトの面で優位に立てていると思います。会議室を会議室として貸し出す企業はたくさんあっても、当社のように、いままで貸されることがなかったような場所を扱っているところはありません。

 私たちは、不動産の概念を自由にしたいという目標を持っています。先ほどもお話ししたように、貸し手はこれまで、不動産とは長く借りてもらって収益を上げるという前提をもとにビジネスをしていました。また、セキュリティ面などに関するさまざまなルールもあった。しかし、いまならテクノロジーで解決できる問題も多い。ウェブカメラは安くて良質な製品が登場していますし、スマートロックをつければこれまでよりずっと安全です。不動産のあり方を見直してもらいたいのです。

 実際、その考え方が根底にあるからこそ、「ここも使える」「あそこも使える」という発想が生まれてきます。最初の概念設定とサービスの思想が当社の一番の強みであり、それによってさまざまなマーケティングを実行できたと考えています。それから、スピードも大きな武器です。メンバー全員が一気に動いて、初期の時点から有力なスペースを押さえることができました。

 コンセプト設計とスピード、その二つで圧倒的な優位性を確保することができました。

 有望な市場であればあるほど、大手企業が参入する怖れはありませんか。彼らは資金力もあり、競合になった場合は大きな脅威ではないでしょうか。

 その心配はしていません。大企業はまったく怖くない。なぜなら、当社のような前例の少ない事業に対して、大手ではまず稟議が通らないからです(笑)。私には大企業で働いた経験があるので、縦割り型の意志決定システムによるスピード感の乏しさはイヤというほど学んできました。「なぜお寺を貸す必要があるんだ!」と上司に言われて、そこでおしまいだと思います。

 仮に稟議が通ったとしても、大企業はこうした新規事業にはエースを投入せず、行き場を失った人を充てることが多い。稀にやる気のある若手に任せることもありますが、せいぜい2年だと思います。将来の稼ぎ頭と期待する人は、一定期間ですぐに異動させてしまう。そうなるとすべてがリセットされます。次の担当者にとっては、新規事業が単なるタスクへと変わってしまうので、それ以上の成長は期待できないでしょう。

 不動産業界もまさにその一つですが、特にリスクある大胆な挑戦が求められる成熟市場においては、たとえ豊富な資金力と人材を備えていたとしても、従来型の縦割りで動く大企業は脅威になりえません。我々のようなベンチャーにしかそれはできず、だからこそチャンスがあると考えています。

 後編は、10月3日(月)更新予定。

【ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2016】

読者限定、通常価格80,000円が60,000円(税別)になる特別割引を実施!「割引コード」の入力欄に「40001」とご入力ください。

日程:2016年 10月11日(火)9:30~18:15
       10月12日(水)9:30~17:15
会場:グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール3F「北辰」(東京都港区高輪3-13-1)
登壇:フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授)、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、ロバート・ウォルコット(ケロッグイノベーションネットワーク 共同創立者・常任理事)、エクゼビア・ロペス(キッザニア創設者)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)ほか。
メディアサポーター:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューほか
詳細http://wmsj.tokyo/
申込:お申し込みはこちらから。

無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking