テレワークの普及を阻む日本企業の誤解

【インタビュー】比嘉邦彦(東京工業大学 環境・社会理工学院教授)

1

生産年齢人口の減少が企業の人材確保の難しさという形で表れ始めた現在、多様な働き方の受容がいよいよ企業活動の持続性という観点で求められ始めている。しかしながら、いまだ企業の取り組みとしては社会的責任(=コスト)として捉える向きが強く、その拡大は容易ではない。この短期連載では、斯界の権威にお話をうかがいながら、多様性を取り込んだ新しい働き方をビジネスとしてどのように受容すべきか、その方法を探っていきたい。
第1回は「テレワーク」研究の第一人者である東京工業大学環境・社会理工学院の比嘉邦彦教授を訪ね、話を聞く。テレワークはオフィスに縛られることなく、自分の好きな環境で働ける仕事のスタイルとして、様々なメリットともに注目を集めて久しいが、各企業に向けた人材サービスを生業とする私に、それが進んでいる実感はない。どうすればテレワークによる多様な働き方は実現するのだろうか。

コスト削減戦略としてのテレワーク

比嘉邦彦(Kunihiko Higa)
米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、同大学講師、ジョージア工科大学助教授、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学 経営工学専攻助教授に、1999年より現職。テレワークをメインテーマとした21世紀の情報システムのあり方、クラウドソーシング、組織改革、地域活性化などについて研究。それらの分野における論文を国内外の学術誌や国際会議などで多数執筆、発表している。著書に『クラウドソーシングの衝撃』などがある。

川崎(以下色文字):政府が雇用型在宅型テレワーカー人口の増加を推進していることで、あらためてテレワークへの注目が集まっています。日経新聞が9月に実施した「社長100人アンケート」では、「政府に期待する働き方改革」の中で、「テレワーク・在宅勤務の促進」を挙げた経営者が4割以上に上っています。しかし、実際にテレワークを本格的に導入している企業はまだまだ少ないように見えます。まずは、日本のテレワークの現状についてお聞かせいただけますか。

比嘉(以下略):昨年、国土交通省が発表した「テレワーク人口実態調査」によれば、2014年の段階で、オフィス以外のICT(情報通信技術)を利用できる環境で週8時間以上仕事をしている人は1070万人となっています。1000万人以上と聞くと多いように感じられますが、この中には会社に雇用されていないフリーランスの労働者も相当数含まれています。また、週8時間ということは、週1日だけということですから、本格的なテレワーク活用というには程遠いといっていいと思います。おっしゃるように、日本企業のテレワーク導入はまだまだ進んでいないのが実情ですね。

 政府が重要政策として推進し、企業ではトヨタなども在宅勤務の拡大を検討しているというニュースも流れました。機運は高まっているようですが、なぜ導入が進まないのでしょうか。

 日本でテレワークの導入がなかなか進展しないのには、大きく2つの理由があると私は考えています。1つは中間管理職の問題です。

 総務省の「平成27年版情報通信白書」を見ると、企業がテレワーク導入のハードルと考えているのは、1位が「情報セキュリティの確保」です。しかし、導入の壁になっている真の理由は、恐らく2位以下にある「適正な労務管理」「適正な人事評価」の方です。しかも、中間管理職が、それを非常に高いハードルと考えています。その理由は明らかで、マネジメントの仕方が分からないからです。オフィスにいない部下をどう管理し、どう評価すればいいか、そのイメージがつかめない。そして管理に失敗したら自分の力不足と見なされる。だからテレワーク導入に非常に消極的なのです。

次のページ  テレワークの成果は 目に見えないものばかりではない»
1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
働き方フロンティア」の最新記事 » Backnumber
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking