【第3回】
人材面から見た生産性向上のあり方

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これまで2回にわたり、産業および企業レベルの観点から、生産性向上をキーワードとして日本の持続的成長のあり方を考えてきたが、本稿ではその重要な実行手段である「人材」にフォーカスを当てる。生産性を高めるためには、いうまでもなく個々人の生産性を上げる(1人あたりのアウトプット量を増やす)ことが不可欠ではあるが、本稿では、課題をもう少し広範に捉え、主に産業・企業レベルでのリソース効率とイノベーション創出を人材面から考察していきたい。

「人材の固定化・偏在化」が進んでいる

 ここ数年、日本の労働力減少に関する議論が活発になっている。総人口のうち15~64歳を労働力人口と呼ぶが、日本ではすでに2000年から減少が始まっており、今後、さらに加速度的に減少していくことが見込まれている。このような国としての労働力減少とそれによる人材不足は深刻な問題ではあるが、産業・企業レベルで見てみると、大企業においてはスキルのミスマッチ・人材未活用・人材固定化、ベンチャー・中小・NPO・特定業界においては慢性的な不足が問題となっている。問題を正しく捉えるためには労働力の減少議論のみに終始するのではなく、国と企業の傾向の違いに着目すべきである。

小野 隆
デロイト トーマツ コンサルティング
ヒューマンキャピタルユニット
執行役員/パートナー

人材・人事領域において、自動車・エネルギー・商社等のグローバル大手企業からベンチャー企業まで幅広くプロジェクトを手がける。特に組織再編時のようなスピーディで合理的な意思決定が求められる局面において、人事戦略調査・立案、要員・人件費計画策定、人事制度設計等、幅広い人事・組織コンサルティングを展開。シニア・ミドル活用・人材流動化等の課題について研究やコンサルティングを展開するとともに、産学連携にて人材流動化に関する研究会を開催。人事マネジメント誌で「日本型人事のブレイクスルー」を連載。

 日本の大企業の人員構造はワイングラス型(40~50代が山、30代が谷、20代が小さい山)となっていることが多い。ボリュームゾーンは、いわゆるバブル期に大量採用した人材群である。

 多くの大企業では事業の選択と集中の結果、縮小・撤退する事業に携わってきた人材(たとえばメカのエンジニアなど)に、そのスキルを活かすことのできる仕事を十分に提供できない状況が生じているとも言われている。

 さらに、事業部制・カンパニー制に代表される部門経営を推進している企業では、抱え込みにより人材が部門内に固定化しており、特に優秀な若手人材については、さまざまな気づきの機会を提供できていないという声もよく聞かれる。

 企業グループ経営の観点に目を向けてみると、グループ内におけるリソースの最大活用を志向しつつも、親会社と子会社の間の関係性から子会社の優秀人材を活用しきれていない、あるいは子会社間における人材交流を行えていない企業も多い。企業グループ内で人材が固定化している状況となっていると思われる。

 他方で、これから日本において新しい産業創造が期待できるベンチャー、中小・中堅企業、NPOにおいては慢性的な人材不足が続いている状況である。中小企業庁のデータによると、企業数でいえば1%に満たない大企業に約30%の人材が集中しており、この構造にも課題がありそうだ。また、外食・小売・物流など、主に日本の内需を牽引していくべき業界においては、すでに企業規模を問わず人材不足が慢性化している状況である。

 このように、国レベルでは確かに労働力は減少していくのだが、産業・企業レベルでいえば、余剰と不足が混在している、つまり、「偏在化」している状況であり、従来の雇用慣習を引きずった形での人材の「固定化」がこの偏在傾向に拍車をかけているのではないか。

 今後、日本および産業・企業の生産性を高めるという観点からは、問題を「人材の固定化・偏在化」として捉え直し、これを何とかして解きほぐしていくよう取り組むことが必要である。

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