日常の課題が山積みでも
長期的なことを考える時間をつくる

ライフネット生命保険 代表取締役社長・岩瀬大輔氏

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創業から10年、副社長から社長になって3年が過ぎた岩瀬大輔さん。気がついたら常に走り続けている日常において、長期的なことを考えることを忘れてはいけないと言う。そのための考える時間をいかに確保するか。次元の異なる課題を処理する方法論とも言える(構成・新田匡央、写真・引地信彦)。

 

飛躍や非連続的なものは、
予定調和ではないところから生まれる

編集長・岩佐(以下色文字):経営者のミッションは、短期的な問題はもちろん、長期的なビジョンを考えることだと思います。岩瀬さんは、それについて「考える時間」をどのように確保していらっしゃるのでしょうか。

岩瀬大輔(Daisuke Iwase)
ライフネット生命保険 代表取締役社長
1976年埼玉県生まれ。1988年、東京大学法学部卒業後、ボストン コンサルティング グループ、リップルウッド・ジャパンを経て、ハーバード・ビジネススクールに留学。同校を日本人4人目となるベイカー・スカラー(上位5%の成績)で卒業。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年より代表取締役社長。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」にも選出。

岩瀬(以下略):私の場合、海外出張が「考える時間」になっているかもしれません。そこには、大きくふたつの時間があります。ひとつは、往復の機内。最近はWi-Fiがつながってしまう空域もありますが、基本的には人とのコミュニケーションが強制的にシャットアウトされる空間です。そこでの時間は、深く思考をするうえで非常に有効だと思っています。

 もうひとつは、海外で会う人たちとの時間です。つい先日も、コペンハーゲンでアメリカの起業家が主催する、世界の未来について考えるカンファレンスに参加しました。世界各国から多様な人が集まっており、アメリカの癌の権威と呼ばれる医師、CIAの元副長官など普段は会えないような人も列席していました。彼らに見えている未来の世界について知るのは、とても新鮮な感覚でした。

 こうした集まりの中には、私たちの事業とは直接関係しないものもあります。ただ、普段とまったく異なる環境に身を置くことで、経営者として目線を上げ、遠くを見ることに役立つと思っています。自分たちが置かれた現状よりも時間的、空間的に大きなものを肌で感じ、そこからさまざまなヒントをもらって考えることで、自分たちの事業の飛躍につながるのです。

 さらに言えば、私たちの事業そのものを遂行する「前提条件」について視座を広げるチャンスにもなっています。地政学的リスク、社会構造の変化、人口動態、テクノロジーの発展などをはじめ、世界がどのように動いているのかを知る。それは結局、人間はどのように変わっていくのか、あるいは変わらないのかということを考える契機につながります。また、同世代で世界を舞台に活躍している人を目の当たりにすることによって、自分自身はどう生きるべきかについても考えさせられます。

 自分の仕事に直接役に立つことばかり考えていると、飛躍は生まれません。飛躍や非連続的なものは、予定調和ではないところにあるような気がしています。

それは、最近になって思われるようになったのですか。

 たぶん、ダボス会議に出席したことがきっかけになっていると思います。私がはじめてダボス会議に出席したのは、2011年1月のことです。当時、ライフネット生命は売り上げ10億円程度の小さな生命保険会社でした。上場もしていませんし、ましてや海外のビジネスもありません。そういう意味では、私がダボス会議に出席することは、ライフネット生命のビジネスには一見すると直接関係ないことと言ってよかったのです。

 出席すべきか悩んだ上で、当時の社長である出口(治明、現会長)にこう言いました。

「長期的には、必ず会社の役に立つようにします」

 しかし、出口は即座に反論し、快く送り出してくれたのです。

「そんなことは考えなくていい。とにかく行ってめいっぱい勉強して来い」

 会議ではさまざまな出会いがありました。なかでも、スイス・リー(スイス再保険)のCEOと知己を得て、40億円の出資をしてもらえることになったのは嬉しい誤算でした。優良な大株主ができただけでなく、150年という歴史ある再保険会社から、さまざまなことを教えてもらっています。それが現在のライフネット生命にとって、多大な影響を及ぼしたことは言うまでもありません。スイス・リーとの関係は現在も続いていて、最近も若手社員がスイス・リーのロンドン及び香港の拠点に半年間出向しています。たまたまダボス会議に出て、たまたま保険会社の経営者が集まるランチに呼ばれ、そこでプレゼンしたことが、会社の飛躍のきっかけとなったのです。

 どのように役に立つかわからないようなこと。そこから得るもののほうが、後からふり返ると飛躍や広がりがあるような気がします。頻繁には行くのは難しいですが、海外で「異質なもの」に触れることは、私にとって考えるためのいい時間になっています。

岩瀬さんにとって、自分とは異なる業種の人と会うことが思考をするうえでのインプットになっているということですか。

 そうですね。同じ国内生命保険業界の人間としか話をしていないと、みんな同じ世界で、似たようなことを考えているので、なかなか未来志向にはなりにくい。私の場合は、海外での異質な人やものとの触れあいこそが、社会や人間がどこに向かっているのかという大きな視点から、自分たちの会社やビジネスのことを考える機会になっています。

普段は「具象」を考えていても、少し高いところから俯瞰した「抽象」を考えるべきだということですか。

 いや、必ずしもそういうわけではありません。国内の同業者と会って話すことによって深まる思考もあるでしょうし、国内の異業種の人、海外の同業者、海外の異業種の人と会うことで、また違った思考が生まれるのではないでしょうか。つまり、それぞれの相手によって、異なる思考が生まれるということです。そこに優劣はなく、海外に行くことがすべてというわけでもなく、ある特定の属性の人に偏るのがよくないのだと思います。

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