幸せだから歌うのではない。歌うから幸せなのだ
――書評『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第35回は、ハーバード・ビジネス・スクール准教授のエイミー・カディによる『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』を紹介する。

身体が心をつくる

 スポーツの経験がある人なら、監督やコーチから「下を向くな!」と叱責されたことがあるのではないか。私自身、何度もそう怒鳴られた。不利な状況に追い込まれて自信を失いかけたとき、背中を丸めて顔が下を向いてしまうことはある。だが、それは本当に自信をなくしたから目線を落としたのだろうか。そうではなく、背中を丸めたから自信を失ってしまい、挽回するチャンスを引き寄せられなかったのではないか。この本を読みながら、まさか10年以上前の負け試合を反省する羽目に合うとは、予想もしていなかった。

 本書は、TED「ボディランゲージが人を作る」が人気を博した、ハーバード・ビジネス・スクール准教授のエイミー・カディがその研究成果をまとめた一冊である。心理学者ウィリアム・ジェームズが「幸せだから歌うのではない。歌うから幸せなのだ」と評したように、人の行動は感情に左右されるというよりむしろ、身体的動作(ポーズ)が感情をつくるという事実を豊富な実証実験から示している。そのうえで、自分にも他人にも影響を与えるパワーを宿す「パワーポーズ」がイラスト付きで紹介され、その効能を丁寧にひも解いている。

 この本が巷にあふれるノウハウ本とは一線を画し、知的欲求を大いに刺激してくれるのは、単にパワーを生み出すポーズを紹介するだけでなく、「なぜそうするのか」を根拠も踏まえて理解できる点にある。

 たとえば、面接やインターンシップ等の場面では、自分がいかに有能かをアピールしたい気持ちにかられ、往々にしてそうしたポーズを取ってしまうことがあるそうだ。だが、それは逆効果だと筆者は説く。なぜなら、人は初対面の相手を評価する場合、即座に「信頼できるか(有能さ)」と「尊敬できるか(温かさ)」の2軸で判断し、より後者を重視していることが研究から示されたからだ。これは国境を越えて当てはまる共通点だという。

 また本書が不思議な説得力を持つのは、それが自身の強烈な経験と問題意識に基づいているからでもある。

 冒頭に書かれているが、筆者は19歳で交通事故に遭って脳に重度の損傷を負い、復学後も授業についていくことができず、大学卒業までに通常の4年以上の時間を費やした。指導教員であるスーザン・フィスクの支援で大学院に進学してからも自信が持てない。新入生が毎年恒例で行うプレゼンテーションを控えた前日の夜、フィスク先生に「辞めたい」と告げたそうだ。すると「あなたはここにいて、やるべきことをやるの。できるふりをしなさい」と言われ、それが彼女がこの研究を始めるきっかけになった。そしていま、自分と同じような問題を抱える人たちの手助けをしている。

 みずからの研究成果を誇示するのではなく、その成果を読み手の問題解決に役立てようという姿勢は心地よく、400ページ近い分量はまったく負担に感じない。面接、会議、プレゼンテーション、スポーツの試合など、あらゆる場面で活用できる貴重な知見が詰まった本書は、さまざまな気づきを与えてくれる。

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