【第2回】
イノベーションの持続的な実現には
全社的なマネジメントが不可欠

【特別対談】昆 政彦(スリーエム ジャパン 代表取締役 副社長執行役員)

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多くの経営者がイノベーションの重要性を強調しているが、それを継続的に体現している企業は少ない。既存事業の利益拡大を優先する経営が、イノベーションへの取り組みを意図せず阻害する傾向にあるからだ。代表的なイノベーション・カンパニーの1つである3Mはなぜ、イノベーションを生み出し続けることができるのか。3Mの日本法人副社長の昆 政彦氏に、イノベーションを支える制度や仕組み、カルチャー、体制・役割について聞いた。

製品と技術を分けることで
新陳代謝を促進

藤井 画期的な技術や製品を数多く生み出してきた3Mは、イノベーション・カンパニーとして知られています。イノベーション・マネジメント・フレームワーク(以下IMF)に照らしてみても、3Mはすべての要素にわたって高度な取り組みをされておられます。

昆 政彦
スリーエム ジャパン
代表取締役 副社長執行役員

GE米国本社勤務、GEキャピタルリーシング執行役員最高財務責任者などを経て、2006年住友スリーエム(現スリーエム ジャパン)入社。取締役財務、人事、情報システム及び総務担当などを経て、2013年10月より現職。02年3月シカゴ大学経営大学院MBA修了。10年3月早稲田大学大学院博士(学術)取得。米国公認会計士(イリノイ州)。

 昆さんは常々、「トップの仕事はイノベーションの場をつくること」とおっしゃっています。そのようなトップマネジメントのリーダーシップは3Mのイノベーションを構成する要素の1つと思います。昆さんから見て、3Mのイノベーションを支える重要な要素を挙げるとすると何になりますでしょうか。

 2つあります。1つ目はカルチャーにあります。私が重要と考えるポイントの1つは徹底的な自律性です。

 3Mの「15%カルチャー(執務時間の15%を自分の好きな業務に使ってもよい)」は有名ですが、特にユニークな点は、15%の時間に何をしているかを上司が知ってはならないこと。経験豊かな上司が知れば、あれこれ指図したくなるものです。だから、上司はあえて「知るべきではない」と言っています。同様のルールを持つ他の企業では、自由な活動の内容を上司に報告していたり、オープンにしているケースが多いのではないでしょうか。

 3Mの15%カルチャーは、あくまで社員の自律性を前提にしています。自律的な社員にとっては、楽しく仕事ができる職場です。逆に、15%の時間に何もしなかったとしても、上司から注意されることはありません。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

電機、自動車、航空、消費財、ヘルスケアなど幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定や新規事業開発、海外市場展開、組織・オペレーション改革等のコンサルティングに従事。社会課題を起点にした新事業創造や、地方自治体・複数企業を核とした地域産業創造に多くの経験を有する。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。その他著書、メディアへの寄稿、セミナー講演多数。

 3Mのような米国中西部の企業は、いわゆる米国企業のカルチャーではなく、1つの企業に長く勤めることも含めて、どちらかというと日本企業に近いカルチャーを有しています。

藤井 上司が中身を知ってはならない15%カルチャーは、日本企業の中でもよく話の挙がる“闇研究”にも近い考え方ですね。長年にわたりトップ主導で運用し続けたからこそ、カルチャーにまで昇華したのだと思います。

 もう1つのポイントは、イノベーション・プロセスの過程で、基本的な考え方として、製品と技術を分けていることです。2つが一体化していると、経営視点からある製品に見切りをつけたいと思っても、それをすることで技術者が路頭に迷い、技術が途絶えてしまうのではと逡巡してしまいます。当然、現場の抵抗はより大きくなるでしょう。製品と技術を仕組みとして切り離すことにより、価値が低下した製品・事業は「捨てやすく」なります。新陳代謝が促進されるのです。

 多くの日本企業は、製品と技術を一体と捉えているように見えます。そのため、新しいイノベーションに挑戦しにくくなる。捨てられなければ、新しいことに振り向けるリソースを捻出できません。

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