真夏の昼下がり、カルビーの社員が絵を描く

DHBR連載「リーダーは『描く』」の取材現場レポート

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DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの連載「リーダーは『描く』」。今月はカルビーの松本晃会長にご登場いただきました。松本さんと一緒に描くのはすべて女性。しかも各分野で部下を率いるリーダーのみなさんです。みなさんは、どのような思いを持っていて、それをどのような絵に描くのでしょうか。ワークショップの様子を追いました(構成・新田匡央、写真・鈴木愛子)。

 

現場のペースを掌握した松本会長

 丸の内のカルビー本社、受付横にある部屋が今回の会場です。カルビーの商品が整然と飾られ、ガラス張りの室内はとても明るい空間。定刻を迎え、参加者のみなさんが揃い、スタッフの準備も万端です。

 そこへ、真打ちの松本さんがお見えになりました。悠然と、にこやかに、そして威厳をたたえて。

「僕に絵を描かせちゃダメだよ」

 松本さんは部屋に入るやいなや、いきなりスタッフにそんな言葉を向けました。これから2時間半の長丁場のワークショップを始めようという矢先、スタッフに緊張が走ります。

「僕の親父が画家でね。でも僕は、その才能をまったく受け継いでいないんだよ」

 どうやら描くことを嫌がっているわけではなさそうです。スタッフの緊張が緩みます。ゆるゆると歩きながらそんなことを語ると、松本さんは用意されたテーブルに歩みを進めます。そこには、すでに参加者のみなさんが座っています。

「みんなは、絵は得意なの?」

 こんどは、参加者のみなさんに語りかけます。3人の女性は、声を揃えて言います。

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松本会長(中央)と参加者のみなさん

「ダメ!(笑)」

 このやり取りを見ていたホワイトシップ代表の長谷部貴美さんは、ワークショップの冒頭、こんな言葉で参加者をリラックスさせようとしました。

「今まで描けなかった人はいませんから、大丈夫ですよ」

 長谷部さんの気づかい。でも、それはリラックスにつながらなかったようです。みなさんは苦笑を浮かべ、ひとりはポツリと「プレッシャー」とつぶやきました。

 長谷部さんが「今まで」という言葉で表現した、このワークショップの生い立ちをご紹介しましょう。もともとは、「絵はもっと自由に描いていい」という思いを伝えようと子ども向けに考案され、2002年に始まったものです。その後、それを大人向けに実施できないかという要請があり、2004年から大人向けにアレンジしたワークショップがスタートします。今では、企業向けにアレンジした「Vision Forest」という組織変革アプローチとして発展、2015年には参加者がのべ1万人を突破しました。長谷部さんが強調したのは、これまでに体験したのべ1万人は、すべて描ききったということなのです。

 ワークショップを共同で提供するのは、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントを行うホワイトシップと、ビジネスコンサルティングサービスのシグマクシスです。本誌の連載「リーダーは『描く』」では、両社の全面協力のもと実際にワークショップを実施し、その様子を記事化しています。

 絵を描けないと言ったみなさん。では、いったいどのような意気込みでワークショップに参加したのでしょうか。

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左から藤原さん、網干さん、中川さん。

「この話を聞いて、美術館での絵の見方なども学べるのは嬉しいなと思っています」

 そう語るのはマーケティング本部フルグラ事業部の藤原かおり事業部長です。

 同じくマーケティング本部フルグラ事業部で企画部長を務める網干弓子さんはこう言います。

「子どもが2年前から絵を描き始めたのですが、子どもの想像力、既成概念にとらわれないものの考え方から生まれてくるものは、我が子ながらすごいなと感心していました。せっかくの機会なので、私も既成概念を取り払って描いてみたいと思います」

 カルビーノースアメリカ社長兼COOの中川由美さんは、今回の話を聞いて「面白そう」と思い、ぜひ参加したいと感じたそうです。

「私にとって絵は、人生になくてはならないものです。というのも、母親がずっと絵を描いていたからです。彼女がよく言っていたのは、自分の中から湧き出すものを描かずにはいられない、ということです。残念ながら、私にはその感覚がまったく受け継がれませんでしたが、自分の中にあるものを描いて、家族に見てもらいたいという思いもあります。今日は、楽しんで取り組みたいと思っています」

 最後は、松本さんです。

「小学校4、5年ごろだったと思いますが、僕は絵が上手だったんですよ。一時期、プロの画家に絵を習っていたほどです。でもね、いつのころからか自分の生活と絵が離れていってしまいました」

 長谷部さんが水を向けます。

「じゃあ、今日はそのころのご自身と再会するかもしれませんね」

「いや、ダメです。この2時間半を終わっても、関心が絵に移らない自信がある」

 全否定です。

「でもね、この2時間半はエンジョイしようと思っていますよ」

 よかった。

「ただ、べつにがんばるつもりはまったくないですよ。がんばったからといって、絵が上手になるわけじゃないからね」

 会場のペースは、すっかり松本さんに握られてしまいました。

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