アップルを再生へ導いた
5つのPR戦術

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アップルへのジョブズの復帰(1997年)から、初代iPhone発売(2007年)までは、まさに同社再生の10年といえる。その一翼を担った同社PR担当者が、アップル流コミュニケーションの5つの秘訣を明かす。


 私が最初にアップルの仕事をしたのは1997年、PR会社ポーター・ノベリの豪シドニー支社にいた頃である。

 スティーブ・ジョブズが復帰したばかりの当時、製品ラインは混沌としていた。名称がわかりにくい複数のコンピュータがあり、プリンターとスキャナーがあった。そしてユニークだが中途半端な携帯情報端末、ニュートンも。

 アップルの見通しは暗かった。ほとんどのメディアは、もはや同社に昔の面影はないと見限っていた。当時のニュースの見出しには、「芯まで腐ったリンゴ」「大々的な人員削減の可能性」「アップルを救う101の方法」といった文言が繰り返し使われた。

 それからの10年間、史上最大級の企業再生に自分が関わることになるとは、その時の私には思いもよらなかった。シドニーからアップルのシンガポール支社に移った私は、アジア太平洋地域での企業コミュニケーションを統括。やがて、母艦である米クパチーノのアップル本社へと異動になり、製品PRチームに加わった。

 この期間(1997~2007年)にアップルは、皮肉屋・批判家たちが間違っていたことを証明していく。そして複数の革新的なイノベーション、巧みなマーケティング、型破りなやり方によって世界を驚嘆させることになる。

 PRはその成功に大きな役割を果たした。アップル在籍時に私が得た5つの教訓を、以下に示したい。これらは今日に至るまで、私の企業コミュニケーションへの取り組み方に多大な影響を及ぼしている。

1.シンプルさを貫く

 アップルのどのプレスリリースでもよいので、可読性テストにかけてみよう。ほとんどは小学4年生程度の子どもにも容易に理解できるはずだ。業界用語、陳腐な定型句、わかりにくい技術用語などは、編集段階ですべて取り除かれる。「普通の人」に我々の言葉が理解されなければ、それは失敗を意味する。そしてアップルで失敗は許されなかった。すべてのプレスリリースは、スティーブ・ジョブズ本人に直接読まれ、承認されていた。

 あなたの会社でも、メッセージを可読性テストにかけ、文書としてのわかりやすさを1~100の点数で測定してみるとよい。こうしたテストは「ワードカウントツール」や「リーダビリティ・スコア」(ともに英語)などのサイトから無料で行える。理想は80~89点、11歳の子どもの学力を要する程度が望ましい。企業のメッセージは理解しやすければ、その分リーチも広がるのだ。

2.記者の時間を大事にする

 我々は報道向けのリリースやイベントを、最も重要な製品か出来事のみに絞って行っていた。「主要」な製品やソフトウェア更新、人事の変更であっても、それが「最重要」でない場合は広報から発信されることはほとんどなかった。

 時にこれは、内部の関係者を苛立たせる。特定の人事や特に関心のあるプロジェクトについて、市場の反応を探りたがる人たちだ。しかしこの方針によって、我々から記者にコンタクトする時には何か重要なメッセージがあるのだとわかってもらえたのだ。

 したがって、報道関係者へのコンタクトは慎重に行い、訴求力のある情報を提供できる時のみにするとよい。そして、リリースを誰にでも見境なく発信すべきではない。相手の担当分野を調べ、それに合わせて文言を調整しよう。

3.記事執筆者には綿密に、丁寧に対応する

 最高幹部へのインタビューや製品レビューの機会を提供する時、我々はすべての記者、インフルエンサー、アナリストに対し、製品について直接丁寧に説明するよう万全を期していた。このボタンを、なぜこのようにデザインしたのか。背面のポートをなくしたのはなぜか。説明がなければ気づかずに評価できないような、細かい特徴。そうした諸々を知っておいてもらうのだ。

 そして、インタビューの後にはフォローアップを行い、他に質問はないか確認し、記事がどんな内容になりそうかをそれとなく探った。執筆者が製品の操作で何か問題にぶつかれば、製品マーケティング部とテクニカルサポートが全曜日24時間いつでも対応する。進行中の記事が、我々の主要なメッセージからやや外れつつある時には、軌道修正してもらえるよう努力を講じた。

 あなたの会社も、ひとたび記者の関心をつかんだら、綿密にフォローアップをするとよい。ただし、過度の干渉で邪魔をしてもいけない。記者が製品レビューを希望したら、直接手渡すことを提案し、その場で簡単にデモを行うとよいだろう。製品ではなくサービスに関する記事ならば、実際の顧客や取引先を厳選して紹介するのも手だ。記事に画像が必要かどうか尋ねる、自社製品と競合製品との兼ね合いについて説明が必要か確かめる、といった配慮も求められる。

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