クリステンセンの破壊理論を
正しく理解する真の価値

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破壊的イノベーションの課題に長年携わるスコット・アンソニーが、破壊理論の現実的な有効性を説く。それは事業成功の法則を示す万能薬ではなく、視野を新たにし続けるうえで優れた手段となるという。


 私と同僚らはこの15年間、さまざまな状況・文脈のなかで破壊的イノベーションの課題に取り組んできた。その理由は当然のものである。なぜなら、私が所属するイノサイトはクレイトン・クリステンセンが2000年に共同創業した会社だからだ。

 2000年は、彼とジョセフ・L・バウアーの共著によるHBR論文"Disruptive Technologies: Catching the Wave"が「破壊」の概念を主流市場に紹介してから5年後にあたる(本誌邦訳「イノベーションのジレンマ」)。また先頃、クリステンセンと2人の共著者は、HBRの新著論文"What Is Disruptive Innovation?"のなかで、今日における破壊理論の意味合いを改めて説明している(本誌2016年9月号「破壊的イノベーション理論:発展の軌跡」)。

 当社における過去15年の経験から、優れた戦略担当者ならば破壊理論を重用すべき4つの理由が明らかになっている(当社の経験とは、大手グローバル企業へのコンサルティング、新興国市場での中規模企業との協業、若手起業家への投資、政府関係者へのアドバイスなどが含まれる)。

 第1に、破壊理論は通常ならば見過ごしてしまう領域に目を向けるよう導いてくれる。クリステンセンの研究によれば、破壊はしばしば市場の「端」から生まれるからだ。

 それはたとえば、需要がそれほど多くない層かもしれない。鉄筋市場で生まれた小規模製鉄所がその例だ。あるいは、これまで市場から締め出されていた層も破壊の源泉になりうる。これは既存のソリューションを消費するための、専門的スキルや資金がない人々である。また、消費活動への参加が地理的に不可能あるいは困難だった場所が、目の付けどころになる時もある。さらにハッカーや学生といった非主流層は、破壊的アイデアの初期にありがちな不備を我慢してくれるかもしれない。

 セオドア・レビットが55年前に指摘したように、企業は時とともに近視眼の度合いを強め、自社が属する市場のど真ん中だけしか見なくなる。そこに破壊理論を意識することで視野が広がり、重要なトレンドを早期に見つけるチャンスが高まるのだ。

 目を向ける領域を広げれば、目に入るものも当然増える。ただし、気づいたトレンドのすべてに対応できる企業はない。ここに、破壊理論を用いる第2のメリットがある。発展の初期段階にある物事のうち、革新につながる最も有望なものと、やがて消えゆくであろうものを選別する役に立つのだ。

 その新参者は、ターゲット顧客により簡便で安価な方法で用事を片付けてもらうような、画期的な手段を持っているのか? そのビジネスモデルは、市場のリーダーにとっては魅力に欠けるものだろうか? 片方がイエスであれば注視に値し、両方ともイエスであれば対処が必要だ。

 たとえば1990年代末、ネットフリックスが導入した定額制によって、顧客は延滞料の心配なくDVDを借りられるようになった。ブロックバスターなどの市場リーダーは、延滞料から膨大な利益を上げていた。また延滞料は、人気作品を迅速に返却させて在庫を切らさないようにする方策としても使われていた。だが、その後どうなったかは、ご存じの通りである。

 破壊理論を用いる第3のメリットは、今後の展開を予測するうえで役立つことだ。クリステンセン、マイケル・レイナー、ロリー・マクドナルドは、今回の論文で次のように述べている。「破壊理論においてはこう想定される。新規参入者が既存の競合企業に正面から立ち向かい、より優れた製品やサービスを提供する時、既存企業はみずからの事業を守るためにイノベーションを加速させる」

 ウーバーは破壊のパターンに完全には合致しない、とする著者らの判断は、この想定に基づいている(私も以前の記事で指摘した)。私たちはかなりの確信を持ってこう予測できる。ウーバーと競合する既存の勢力は、ウーバーに対抗する動機を持ち、あらゆる手段を用いて反撃するはずだ。タクシー市場は分断されており、多くの地域で顧客はタクシーの信頼性や清潔さ等々への強い不満を訴えている。そこにはウーバー成功の大きなチャンスがあるものの、さまざまな面で熾烈な競争が迫られる。

 対照的なのが、空き部屋共有のプラットフォームを提供するエアビーアンドビー(Airbnb)だ。多くの市場で、ホテル運営者の強い反発を受けずに成長してきたからである。実際、クランチベース(スタートアップのデータベース)で両社を見比べると、ある事実が明白となる。ウーバーはエアビーアンドビーより若い企業だが、エアビーアンドビーの3.5倍近くにも上る資金調達の必要に迫られている(本記事掲載時点で87.1億ドル23.9億ドル)。既存勢力との闘いは高くつくことを、ウーバーは思い知っているのである。

 第4のメリットとして、破壊理論の正しい活用は、社内における主要な戦略的判断の指針となる。

 企業には、いま行っている事業の洗練化と効率化に徹しようとする習性がある。一方、破壊的イノベーション理論は、既存企業に対して、現行のシステムに合致しないアイデアを商業化するための、十分な領域を社内に設ける必要性を説いている。そして既存事業とは別の組織を設立・管理するには、多大な投資とマネジメント上の配慮が必要とされる。したがって、それは破壊理論に合致する特定の状況に限って実行するのが賢明なのだ。

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