【第1回】
日本の生産性の本質的論点

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未来への投資の文脈で、政府が生産性革命の旗を振っている。いまだその輪郭はぼやけているが、現に日本の生産性は低く、日本の行く末を考えるとき、最も重みを持つ論点の1つであることは間違いない。無論、効率だけが幸福を規定するわけではないが、人口動態としては「縮む」日本における「成長」とは何かを考えるために、決して新しくなく、また魅力的とも言えない生産性という概念と真正面から向き合い、国としての組織効率について、産業、企業、人材、それぞれの観点から3回の連載で議論したい。

なぜ国として成長しなければいけないのか

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図1 労働生産性「成長率(指数)」の各国比較

 日本の生産性は低い。これは周知の事実である。では、どのような様相になっているのか。詳細は経済財政白書や通商白書、日本生産性本部のレポートなどに譲ることとするが、たとえば、生産性の成長率を指数にしてみると、労働力一単位あたりの生産性は伸びをみせているが、経済成長への寄与の大きい資本一単位あたりについては、米英と比べてまったく異なる動きとなっている(図1)。同じく寄与度の高いTFP(全要素生産性)についても低調が続いており、昨今の日本経済の苦境を物語っている。製造業とサービス産業、あるいはIT関連とIT非関連に区分するとまた異なる様相が浮き彫りになったり、個別産業で見ると一部に米英よりも高い産業があったりと、一口に生産性といっても事はかなり複雑である。

日置 圭介
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

日本企業が世界で勝ち抜くために乗り越えるべき課題や進むべき方向についての提言活動を推進。また、電機、自動車、化学、エネルギー、IT、小売などの多業種の日本企業に対して、グローバル組織/機能戦略の構想、実行を支援。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師、日本CFO協会主任研究委員。

 従来の生産性向上=工場の改善活動と言えば日本の得意分野に聞こえるが、いま問われているのは、国としてのアウトプットを増やすための生産性、つまり、人口が減少に転じる中で、成長を持続するためにどの領域に投資し、どのような革新を目指すかという見地からの生産性である。

 生産性を論じるにあたり、2つの問いへの答えの中に我々の立ち位置を示しておきたい。1つは、なぜ国として成長しなければならないかである。内閣府が2016年7月に発表した「中長期の経済財政に関する試算」では、経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移することを前提としたベースラインケースにおけるGDP成長率は、実質・名目ともに1%台である。決して高くはないが、人口減少を計算に入れても成長する予測であり、1人あたりのアウトプットが高まれば、国としてのアウトプットは必ずしも伸びなくてよいという考え方もある。それでも成長を目指すのは、成長することによって、未来への投資の原資を確保することができるからである。環境変化がますます激しくなる今後、国としての投資能力がなければ、成長どころか維持もできず、衰退してしまう。

 もう1つが、国が謳うような「革命」的な生産性向上を目指す議論から「日本らしさ」は消えてしまうのか、消える前提で議論すべきなのか。もちろん、日本らしさと言っても、一部のおもてなし論に代表されるような手放しの日本礼賛ではなく、現実を捉えたうえでの日本らしさである。たとえば「ムラ社会」などと表現される共同体思想。ポジティブに捉えれば、昨今再びの流行言葉となっているビジネス・エコシステムの有効な土台になるが、一方で現実には、日本の「変化しにくい体質」や「ガラパゴス化」の根本原因であるなどネガティブな側面もある。しかし、本当に日本の生産性向上に向き合うためには、日本らしさをポジティブに機能させ、もしハードルがあればそれを下げるようなアプローチを取らなければ、早晩、膠着状態に陥ってしまうだろう。その意味で、日本らしい生産性向上の捉え方と方向性を見出していきたいというのが我々の立ち位置である。

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