Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

トップは自らIT化を率先し
顧客体験を変革せよ

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ITは第2の産業革命をもたらすといわれる。情報技術で産業同士をつなげることで、新たな顧客価値を提供することが可能になる。何をどうつなぎ、広げていくかはトップマネジメントの仕事。チャレンジングな時代の一方で、IT活用を自分事とらえることができてない経営者も多いという。IBMでサービスサイエンスの研究を立ち上げた澤谷由里子氏に、顧客体験を変革するIT活用のあり方について伺った。

サービスデザインは経営上の問題

――専門領域であるサービスサイエンス、サービスデザインとは、どのような学問なのですか。

澤谷 由里子(さわたにゆりこ)
東京工科大学コンピュータサイエンス学部大学院アントレプレナー専攻教授
早稲田大学WASEDA-EDGE未来創造デザインプログラム担当、ビジネススクール
東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系博士後期課程修了。学術博士。日本アイ・ビー・エムで情報技術の研究開発および戦略に従事。2005年からサービスサイエンス研究の立ち上げを実施。2013年、早稲田大学教授。2015年より現職。サービス学会理事、研究・イノベーション学会理事などを兼任。近著に『Global Perspectives on Service Science: Japan』がある。

 サービスデザイン研究は1990年頃、ウェブサイトのインターフェースのデザインから始まり、インターフェースからインタラクションのデザインへ、さらに現在はユーザーエクスペリエンス(顧客体験、UX)のデザインへと研究開発領域が拡張しています。先行する欧州では、コミュニティや医療システム、公共システムなどのデザインが立ち上がっています。

 かつて私が所属したIBMでは、2000年代前半に主力事業をPCからサービスにシフトしていきましたが、サービスを事業化するにあたって、サービスやアウトソーシングの値づけをどうするか、あるいはアウトソーシングを行う場合に、マネジメントレベルから作業やレベルに至るまでの顧客企業の担当者とどのような形でコミュニケーションをとるのが効率的か最初は何もわからなかったわけです。大学を見わたしてもサービス学などはなかった時代です。そこで、サービスサイエンスという研究領域をつくろうという機運が高まり、IT技術者、UX研究者、文化人類学者などが加わって、サービスをシステムととらえ、デザインする手法を開発していきました。

 サービスシステムというと抽象的ですが、表舞台と裏舞台を考えてもらうといいでしょう。たとえば、表舞台は銀行のカウンターで、顧客接点が実際にあるところ。その後ろには、マネジャーがいたり、お札があったり、ITシステムなどバックエンドのシステムがあります。前と後ろのすべてをサービスシステムととらえて、デザインしていくということです。いち企業だけではなく、関連会社やパートナー企業、顧客を含めた社会をデザインしていくといった形に広がりを見せています。

 重要なのは、サービスデザインはデザインに留まらない、経営上の問題なんだということです。組織の現場では、さまざまなサービスの改善案が出てきます。これを大きく変えていくには、組織のマネジャーやトップマネジメントが、それまで自らやってきた方向性をどのように変えていくかを考える必要があります。結果として、企業の戦略やミッションまで変わるというような大きなインパクトが出てくる可能性を持っているのがサービスデザインだと思います。

――当時のIBMには、PC事業から撤退し、サービス事業で十分な収益が上げられるとの見込みがあったのですか。

 サービスサイエンスの最大のチャレンジがそこです。IBMのなかでもサービス事業の割合が増えて、日本でも1990年代後半には60~70%を占めるまでになっていました。そうすると、サービス事業の割合が高くなればなるほど、利益が減るという問題が生じました。ハードウェアはつくって売るだけ、ソフトウェアはCDを焼いて売るだけで、いずれも人件費がかからず収益も高い。ところがサービス事業はどうしても人手がかかります。サービス領域でビジネスが増えていることは現実としてあったので、いかに効率を上げ、価値化するかというのが私たち研究者に与えられたテーマでした。結果として、5~6年の取り組みで70%のコスト削減や新しいビジネスの創出に成功し、社内でアワードをもらいました。

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