外国人からの「想定外の質問」が
イノベーションを生む力を鍛えてくれた

—―ネスレ日本代表取締役社長兼CEO・高岡浩三

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2016年10月11日・12日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、東京で最後の「ワールド・マーケティング・サミット」が開催される。カウンシル代表を務めるネスレ日本代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏は、日本企業の経営者にはマーケティングが欠けている、と警鐘を鳴らす。高岡氏のインタビュー後編。(構成/加藤年男、写真/引地信彦)

現場のアイデアを正しく評価し、
それを磨き上げるのが上司の仕事

高岡浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社。各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリーマーケティング本部長として「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月より現職。主な著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)がある。

編集部(以下色文字):これまで「顧客が気づいていない問題」を発見してきたイノベーターは天才と称されるような人材が少なくありません。イノベーターを育成することはできるのでしょうか。

高岡浩三(以下略):育てるのは簡単ではありませんが、それをやらなければならないと思っています。当社では、5年前より「イノベーションアワード」を実施し、社員それぞれが自分の顧客が抱える問題を発見し、それを解決するアイデアとその実行プロセス、さらに成果を含めた取り組み実績までを社内募集しています。最優秀賞には100万円の賞金とスイスへの研修旅行を贈呈しており、現在は3300件を超える応募があります。そして実際に、当社の成長に大きく貢献するものも出てきました。

 イノベーションアワードはいま、8ヵ国に広がっています。日本から始まったこともありいまはアジアが中心ですが、西アフリカのガーナでも実施され、同じように100万円の賞金が与えられます。こうした仕組みを世界に広げていくことも、イノベーターを育てるうえで非常に重要ではないでしょうか。

 個人レベルでのチャレンジを積極的に後押しするリーンスタートアップの取り組みこそ、いまやらなければいけないことであり、ネスレの世界的な仕組みにしていければと考えています。各マーケットで起こっている顧客の問題をピックアップしてスイスの本社に集約し、解決すべき問題がわかれば、ネスレグループとして世界的なイノベーションを起こすこともできるでしょう。

 革新的なアイデアは前例がないため、評価する側にもその良し悪しを判断することが困難です。

 評価する側がその効果を見通すためには、「顧客が気づいていない問題」を意識できていなければなりません。ご指摘の通りで、そこはイノベーションアワードの重要な課題でもありました。

 最初の2年間は応募されたアイデアのすべてに私が目を通し、役員には自分が担当する事業部の中からトップ10を選んでもらい、その後に役員会議で評価していました。当初は、私と役員の意見とはまったく合いませんでした。これは予想していたことでもあります。どれが革新的なアイデアなのかを見極めることが難しく、なかなか評価できないのです。

 たとえば、イノベーションアワードのアイデアの一つに、「焼きキットカット」がありました。工場に勤務する若い男性社員が出したこのアイデアを見て、私は即座に最優秀賞にしたいと思いましたが、そのとき他の役員からは「トースターで2分間焼くだけのアイデアがなぜ最優秀なのか」と問われました。

 日本では夏場に、チョコレートの売上が落ちます。その代わり、食感の軽いビスケットの売上は上がります。これは業界では広く知られている事実です。実は、このアイデアはその問題を解決しています。なぜなら、キットカットを約2分間焼くと、表面が少し焦げてビスケットのような食感になり、夏でも食べやすくなるからです。

 実際、広告でそのやり方をお客さまにも伝えたところ、夏場のキットカットの売上も2割程度上がりました。お客さまもキットカットをトースターで焼くことで、夏もおいしく食べられることに気づいていなかったのです。もし焼きキットカットを工場でつくろうとしたら、大きな設備投資が必要となります。テレビ広告に少し投資することで毎年の夏場の売上が上がるとなれば、それは十分にリターンが見込めます。

 このように、選んだ側は「なぜそのアイデアが採用されたのか」をすべての従業員に説明できる必要があります。そこで私たちはイノベーションアワードの審査において、まず、「顧客が気づいていない問題」がどこにあるのかを共有することから始めました。5年経ってようやく、私と役員たちの意見が一致するようになってきたと思います。

 この取り組みは従業員の教育ばかりでなく、将来のイノベーターになりうる人材を見つけるためでもあるのです。

 評価する側にも成長が求められるということですね。

 部下から出てきたアイデアは、ダイヤモンドの原石のようなものです。そして、その原石を磨いてダイヤモンドにするのが上司の仕事です。原石を見つけるだけでなく、それを磨き上げなければなりません。

 たとえば、全国の百貨店8店舗で展開している高級キットカットの専門店「キットカット ショコラトリー」も、イノベーションアワードから生まれ、わずか2年で累計20億円の売上を上げるまでになりました。それだけでも記録的ですが、この専門店がある程度、全国的にも話題になったので、Eコマースでの販売を開始しました。これにより、20億円の売上は200億円にまで拡大すると見込んでいます。

「焼きキットカット」も「キットカット ショコラトリー」も、企画した本人はそこまで考えていなかったことでしょう。それでも構いません。私自身、30年以上のキャリアを重ね、多くの失敗を重ねてその感覚を磨いてきました。イノベーションアワードを始めたからといって、社員にそれをすぐにやりなさいと要求することはありません。彼らにはまず、自分で考え、行動する習慣を身につけてほしいのです。そして、上司がその優れたアイデアを磨き上げることで、大きな成果を生み出すべきだと思います。

 全社的にイノベーションを起こす能力を高めることは、非常に大事なトレーニングです。現場からのアイデアと、それを正しく評価して磨き上げるマネジメントの両方が伴わなければ、優れたアイデアの芽を摘んでしまうことになりかねません。実際に日本企業のほとんどは、その状況に陥っているのではないでしょうか。

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