【第1回】
ジレンマを超える経営

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既存事業での無駄な投資の最小化と確実な利益拡大を至上命題としながらも、急速に進むデジタイゼーションの下で次の事業の柱となりうるイノベーションの探索を怠らない。この2つの成果を両立することが、経営により強く求められるようになっている。デロイト トーマツ コンサルティングが行った実態調査結果で明らかになった、日本企業のイノベーション経営における課題について考察する。

不確実な時代にいっそう問われる
経営のAmbidexterity(両利き)

 経営の舵取りがいっそう難しい時代となっている。一見相反する方向軸を持つ2つの概念、例えば「グローバル経営とローカル深耕」「プレミアム化とフリーミアム化」などの二項対立概念を超えて、双方の成果を同時に達成することが強く求められる世界になりつつあるからだ。

 近年議論が進むCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)はまさにこの代表例であろう。CSVでは「社会課題解決と経済的利益創出」の2つを同時に達成することが求められている。まさに“両利き”さながら、2つの異なる経営の方向軸を組織の中に並立・融合させることが求められているのだ。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

電機、自動車、航空、消費財、ヘルスケアなど幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定や新規事業開発、海外市場展開、組織・オペレーション改革等のコンサルティングに従事。社会課題を起点にした新事業創造や、地方自治体・複数企業を核とした地域産業創造に多くの経験を有する。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。その他著書、メディアへの寄稿、セミナー講演多数。

 これらの二項対立概念の中でも、「既存事業の深耕(Exploitation)と新規事業・イノベーションの探索・創出(Exploration)」は、古今東西の経営者に“両利き”が求められる、きわめて普遍的かつ本質的なテーマだ。

 特に日本企業においては、いわゆる“失われた20年”の過程で、既存事業での利益捻出という片方の方向軸に過度に偏った経営に陥り、それが組織文化として染みついてしまった企業が思いのほか多い。

 昨今の追い風の経営環境下で、新規事業・イノベーションへの戦略投資を一気に強化する企業が相次いでいるが、このような“片利き”が染みついたままの戦略投資では効果は持続し得ない。まさに新規事業・イノベーション投資で確実に果実を得るための“両利き経営”が、いまの日本企業にとって、古くて新しい重要な経営アジェンダとなってきているのだ。

 このアジェンダは決して日本企業特有のものではない。いまやソフトウェア企業への転身に向けて投資を積極化しているゼネラル・エレクトリック(GE)は、遡ること2012年から、ジェフリー・R・イメルトCEOの掛け声の下、FastWorksと銘打ち、シリコンバレーのスタートアップ企業並みのスピード感を経営に埋め込むことを目指して、全世界でリーン・スタートアップ手法の導入を展開している。厳しい利益管理で知られるGEだが、従来の手法のみでは顧客ニーズや市場の要請に素早く応えることができないという問題意識の下、重厚長大型の既存事業の制度・文化が広く根付く社内に、あえて新たにスタートアップ・プロセスを埋め込むというチャレンジに、まさに経営トップ自ら取り組んできているのだ。

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