ブロックチェーンの破壊的影響は
金融業界の枠を超える

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名著『ウィキノミクス』で知られるドン・タプスコットが、最新刊Blockchain Revolution(未訳)を先頃発表した。本記事ではブロックチェーンの途方もない可能性を概説する。そのインパクトは金融業界に留まらず、ビジネス界と社会に広く及ぶという。


 今後の10年間において、ビジネスのあり方を最も変える可能性が高いテクノロジーは何か。ソーシャルウェブやビッグデータやクラウドではない。ロボティクスでも、人工知能でもない。

 その答えは、ブロックチェーンである。ビットコインのようなデジタル通貨を支えるテクノロジーだ。

 ブロックチェーンの技術は複雑だが、概念は単純である。ごく基本的に言えば、それはグローバルに分散された巨大な台帳あるいはデータベースであり、さまざまな機器上で作動し、誰にでもオープンなものだ。情報だけでなく、価値を伴うものなら何でも(金銭、所有権、証書、音楽、芸術、科学的発見、知的財産、さらには投票までも)、安全に機密性を保って移管・保管ができる。

 ブロックチェーンにおける信用を確立するのは、銀行や政府やテクノロジー企業のような有力な仲介者ではない。一般の人々による連携と優れたコードである。ブロックチェーンは、見知らぬ人同士における正当性と信用を保証する。相手を欺くことを難しくするのだ。

 別の言葉で言えば、ブロックチェーンは「価値を扱うためのみにつくられた、初のデジタル媒体」なのである。情報に特化した初のデジタル媒体がインターネットであったのと、まさに同じである。そしてこのことは、ビジネスと企業にとって大きな意味を持つ。

 ブロックチェーンをもてはやす言説で主に強調されるのは、金融サービス業界を根本的に変える可能性である。金融取引のコストと複雑さが減り、銀行口座を持たない世界中の人々が有望な新市場となり、透明性と規律が向上する、というものだ。実際、金融の分野にはすでに大きな影響が及んでいる。

 しかし、我々の2年間の調査活動(専門家への数百回に及ぶインタビューを含む)からは、別の有力な証拠が示されている。ブロックチェーンはビジネス、政府、そして社会を変革する可能性があり、その影響は金融における変化よりも大きいであろうということだ。

 インターネット時代の初期には、マネジメント思想家の多くが、インターネットは企業内外の取引コスト(とりわけ調査・調整・コミュニケーションのコスト)を下げるだろうと予測した。今日でもそう考える人はいる。しかし意外なことに、インターネットは取引コストの多くを大幅に下げるには至らず、企業構造に及ぼした影響は小さかった。

 インターネットが次の世代に入り、情報だけでなく価値も扱うようになったいま、ブロックチェーンは多くの取引コストを大幅に下げる可能性がある。

 たとえば、すべての取引をグローバルに検索可能なデータベースは、調査のコストを劇的に下げるだろう。ブロックチェーンの「スマートコントラクト」(複雑な命令を自動的に実行するソフトウェアプログラム)は、契約の締結・履行と決済に要するコストを激減させるはずだ。また、ブロックチェーンにおける自律エージェント(リッチアプリケーションのように動くスマートコントラクト群)は、仲介者の存在と調整コストを不要にする可能性を秘めている。マネジメントがほとんどもしくはまったく必要のない、高度に分散化された企業の形成にもつながるかもしれない。

 例として、音楽業界について考えてみよう。

 この世界では仲介業者がほとんどの価値を手にし、アーティストへの対価は最後に支払われる。しかし、グラミー賞受賞のシンガーソングライター、イモージェン・ヒープが設立したマイシリア(Mycelia)は、スマートコントラクトが組み込まれた“インテリジェントな”楽曲を開発した(英語記事)。アーティストはこの方法を使えば、音楽レーベル、金融仲介機関、あるいはテクノロジー企業を通さず、消費者に直接売ることができる。印税契約と使用許諾契約が自動的かつ即座に履行され、最初に支払いを受けるのはアーティストになるのだ。スポティファイ、アップル、ソニーミュージックのような巨大音楽企業にとって、このテクノロジーをいかに早く取り入れるかが勝敗を決することになるだろう。

 また、ブロックチェーン技術は多くの画期的なアプリケーションをサポートすることで、ネットワーク型のビジネスモデルを新たなレベルへと導く可能性がある。銀行やクレジットカード会社、その他の仲介業者を通さずに稼働できるネイティブな決済システムは、取引のコストと時間を削減する。評価システムは社会・経済資本に基づいて築かれ、格付け機関や信用評価サービスのような仲介業者ではなく個々人に管理される。そうなれば、消費者と企業の力関係にも変化が及ぶだろう。見も知らず信用も確立していない他者とのビジネス、つまりトラストレス(信用不要)な取引が実現可能となるのだ。これらが秘める大きな影響力は、金融サービスに留まるようなものではない。

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