「起業」から「企業」へ

どれだけ素晴らしいプロダクトを開発しても、マネタイズに成功するまでいくつものハードルがある。そして順調に成長したスタートアップもスケール化の段階で踊り場を迎えることは多い。スタートアップが真の企業へと進むにはどのような課題があるのか。

 

すべての大企業も、もともとスタートアップだった

 以前、日本電産の永守社長にインタビューした際、つくづく思ったのは、いまやグローバル企業のトップである永守さんも、昔はスタートアップ企業の創業者だったんだということです。創業当時の大変さは書籍や雑誌でも紹介されていますが、いまの六本木や渋谷のITベンチャー企業と同じように、寝る間も惜しんで資金繰りにも奔走。まさにHard Thingsな日々を送られておられたことでしょう。そしてグローバル企業となったいまでさえ、スタートアップ企業のような、動きの速さと成長意欲の高さを保持し続けているところが、同社の最大の魅力でしょう。

 動きの速いスタートアップと、安定した既存の大企業を対比しがちですが、すべての大企業はもともとスタートアップであったのです。創業時の熱気は、いま「動きが鈍い」と言われる大企業にもすべて備わっていたはずです。その「スタートアップらしさ」が、事業や組織の安定と引き換えに、「企業」としての形が整っていくとともに失われていくのは皮肉としかいいようがありません。

 一方で、大企業になれたスタートアップはほんのわずかでもあります。圧倒的多くのスタートアップは、「企業」になるどこかの段階で成長が止まり、あるいは事業継続もままならなくなり市場から退場しています。それだけ「企業」として社会に永続した存在になることは、偉大なことです。

 今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、「起業の成長論」を特集しました。リスクをとって社会に新しい価値を生み出そうとして誕生するスタートアップ。その小さな存在が、少しでも大きくなり社会的存在になる、その道しるべを描ければと思いました。そもそも構想をもって生まれたスタートアップも、製品化・サービス化に成功することさえ大変なことです。かりにプロダクトが生まれても、ビジネスモデルとして収益化の壁がまた高い。そして、順調にこの階段を進んでも、ビジネスモデルのスケール化で多くの成功したスタートアップも苦労しています。一見、数十億円の売上げで成功しているかのように見える企業も、そもそもはグローバルに事業展開したいという野望から生まれたところも多く、事業規模が拡大しないジレンマに悩まされます。

 このようないくつもの壁を乗り越え、日本電産のようなグローバル企業になるには、何が必要か。多くのスタートアップがこれらの階段を登り切っていくことによって、日本経済全体が活性化するのです。

 一方で、スタートアップが事業の安定とともに、大企業の悪癖を備えてほしくないと痛烈に思います。年功序列的な人事制度、前例踏襲主義、社内政治の跋扈など、企業が一つの組織として安定するとともに、新しく生まれる悪しき習慣は、一度なじんでしまうと変えるの非常に困難なものです。創業時のプリミティブな想いをもちつつ、事業と組織が安定しながらも変化を続け、社会的になくてはならない存在となる。「起業」というチャレンジから、こんな「企業」が多く生まれることを切に願っております。(編集長・岩佐文夫)

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