世にはびこる「リーダー神話」を信じるな
――書評『悪いヤツほど出世する』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第30回は、スタンフォード大学ビジネススクール教授のジェフリー・フェファーによる『悪いヤツほど出世する』を紹介する。

リーダーシップ教育の“ウソ”を暴く

 この数ヵ月、ドナルド・トランプのニュースを見ない日はない。良識を疑うような過激な発言を繰り返しており、報道のほとんどがトランプに対して批判的な論調である。しかし一方では、彼が大衆の支持を集めつつある現状もある。また、同氏が実業界で大成功を収めた人物であることはまぎれもない事実であり、ある側面から見ると“優れた”リーダーであるともいえるだろう。しかし、どのリーダーシップ教材を読んでも、「トランプのように振る舞え」とは書いていない。

 謙虚で、自分に正直で、誠実で、信頼に足り、思いやりがある。世のリーダーシップ教育では、そうした能力がリーダーに不可欠とされているが、それは正しいのだろうか。むしろ、著名なリーダーに目を向ければ、ほとんどが真逆の性質を備えているのではないか。本書の議論は、そんな問題意識から始まっている。

 こうした問題提起自体は、けっして目新しいものではない。本書でも紹介されているが、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチのような世界的リーダーが、傲慢で独善的な顔を持つというエピソードは世に溢れている。また、そこまで遠い世界に思いめぐらせずとも、身近な上司に同様の感想を抱いている人も多いのではないか。

 特筆すべきは、「リーダーはこうあるべき」という神話に対して、「それは理想像にすぎない」という反論のみならず、「なぜならば」という根拠がアカデミックな知見を交えてしっかりと積み重ねられている点である。リーダー神話派の自分が著者とディベートをするような感覚も覚え、それはやがて「人間とは何か」に対する本質的な理解にもつながっていく。私たちメディア関係者やリーダーシップ教育に関わる方には耳が痛くなる指摘も多いが、随所に挿入される軽快な皮肉は心地いい。

 本文中にも少し触れられているが、ここで提示されている反証が必ずしも日本に当てはまるとは限らない。ただ、世にはびこるリーダーシップ教育の“ウソ”を丁寧にひも解いており、インテリの天の邪鬼が目立ちたいがために筆を取ったわけではなく、現在のリーダー論の常識に警鐘を鳴らす内容に仕上がっており、一読の価値があるのではないか。同じくフェファーの著書である『「権力」を握る人の法則』とあわせて手に取っていただきたい。

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