Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

マルチスピードITを武器に
複合競争時代を勝ち抜く

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デジタル時代の到来がもたらした複合競争を勝ち抜くには、不確実性の高い市場で新規事業やビジネスモデルの確立を狙う「ビジネスイノベーションの取り組み群」と、「成熟市場にて既存のコア事業(レガシービジネス)の持続的な利益とキャッシュ創出を狙う取り組み群」を両立させる能力が企業には求められる。そしてCIOに求められるのは、ほぼすべての取り組みに対して同一の方法論で応えてきた「モノスピード型IT組織」から、個々の事業が必要とする、進化の速度に応じて適切なタイミングで適切な速度にギアチェンジして対応できる「マルチスピード型組織」へと転換させることである。

CIOが最優先で取り組むべきアジェンダ

  今日、デジタル時代の到来によりすべての産業において競争環境の変化が加速しています。このような状況において、企業活動におけるテクノロジーの役割もこれまでの「経営の下支えという役割」に加え、「新たな事業競争力そのものをつくり出す役割」へと広がりを見せています。

 たとえば、デジタルデバイスやセンサーにより生み出される粒度が細かくリアルタイム性の高い背景・状態データ(コンテキストデータ)の商品開発への活用や、クラウド技術の活用による機器のソフトウェア化は、幅広い産業において製品のライフサイクル短縮化や、もの売りからものとサービスを融合した成果型ビジネスモデルへの転換を加速させています。こうした「進化するものづくり」競争の激化は、事業競争力の源泉の一つである商品開発力の定義を、「断続的に決められた機能・性能・品質をつくり込む力」から「継続的に顧客提供価値を進化させる力」へと変え始めています。

 また、常にヒト・モノ・情報がネットワークにつながっているIoT社会が常識化するにつれ、顧客はほしい商品やサービス、情報をほしい瞬間に煩わしさを感じることなくアクセスできるのが当然のことだと認識し始めています。こうした顧客の期待値の変化により、企業は「顧客体験の旅(カスタマージャーニー)の掌握」という新たな競争にも直面し始めています。そこでは多くの顧客から「真のニーズを見せてもらえる特権(顧客データをもらえる特権)」を得て、その洞察を基にデジタル・リアル双方において「パーソナライズされた顧客体験を創造する力」を培うことが新たな事業競争力の源泉になります。

 このような複合競争時代を勝ち抜くためには、企業は将来成長に向けてあえて不確実性の高い市場で新規事業やビジネスモデルの確立を狙う「ビジネスイノベーションの取り組み群」と、「成熟市場にて既存のコア事業(レガシービジネス)の持続的な利益とキャッシュ創出を狙う取り組み群」を両立させる能力が求められます。そしてCIOに求められるのはほぼすべての取り組みに対して同一の方法論やアーキテクチャ、ガバナンスのアプローチで応えてきた「モノスピード型IT組織」から、不確実性の高さ・成熟度が異なる個々の事業が必要とする進化の速度に応じて適切なタイミングで適切な速度にギアチェンジして対応できる「マルチスピード型組織」へと転換させることです。

 マルチスピードITの実現は、自己の役割を企業におけるビジネスモデル変革のリーダーへと引き上げたいCIOにとっては最優先で取り組むべきアジェンダになります。今日、FinTechやInsurTech、EdTechなど半ば社会現象になりつつあるTechバズワードへの期待が高まりつつあります。それにより、一部の企業の経営者や事業部門の長は、黎明期のテクノロジーさえ取り込めば早急に競争のルールを一変させるようなビジネスモデルの構築が可能だと錯覚し始めています。既存IT部門の動きを待っていては遅れるとばかり、独自に先端テクノロジーの取り込みに乗り出す事業部門さえ存在します。

 マルチスピードITを実現できるCIOは、IT部門と自らをこうしたビジネスモデル変革の取り組みの中心に置く機会を得ることができます。一方、それができないCIOは「IT部門は将来成長の減速要因になりかねない」という経営者の疑念を払拭することができず、結果的に企業が「第二のIT組織」を既存IT部門の外につくらざるを得ない状況をもたらしかねません。そうした状況下では、既存IT部門はその役割をレガシービジネスの安定的な保守・運用と外部サービス取りまとめのみに縮小され、「第二のIT組織」が企業の将来成長への対応力を養うのを傍観するだけに終わってしまいます。

 マルチスピードITの実現は、自己の役割を企業におけるビジネスモデル変革のリーダーへと引き上げたいCIOにとっては最優先で取り組むべきアジェンダになります。

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