日本の期待を背負うプレッシャーも、楽しさもある

——JAXA宇宙飛行士・大西卓哉

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日本人初、民間航空機のパイロットから宇宙飛行士に選抜されて話題を呼んだ大西卓哉氏。2016年6月より、国際宇宙ステーション第48次/第49次長期滞在クルーとして滞在することが決まった。2009年に選抜され、そこから7年の訓練期間を経て滞在が決まった大西氏に、打ち上げを前にした心境を聞いた。

不安はいっさいない。
いつでも宇宙に行ける

編集部(以下色文字):大西さんの国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在が正式に決まりました。まず、率直なお気持ちをお聞かせください。

大西卓哉(以下略):実際には、このミッションへのアサインは2年前に発表されていました。米国にいた時、上司からの電話で知らされたと記憶しています。連絡をもらったときに大きな驚きはありませんでしたが、「いよいよ自分の番が来るんだな」と気持ちが新たにはなりました。

 候補者に選ばれてからの7年間、一つひとつの訓練を着実にこなしてきたので、不安はいっさいありません。いまは、いつでも宇宙に行ける状態です。これからは、打ち上げの日が来るのを楽しみに待ちたいと思っています。緊張感はまだそれほどなく、むしろ、楽しみにしている部分のほうが大きいです。

――今回の長期滞在では、どのようなミッションを課されているのですか?

 補給船の打ち上げ時期などは国際的な調整になってしまうので、まだはっきりとはわかりませんが、だいたいの予定は見えてきました。まず、「きぼう」の新しい実験がいくつか始まります。「きぼう」のユニークさを生かしたエアロックをご存知でしょうか。これは「きぼう」の中と国際宇宙ステーションの外で、手軽に物を出し入れできる装置です。いま、それを有効活用した新しい実験スタイルが確立され始めています。

 たとえば、超小型の衛星をそこから出して、それをロボットアームでつかんで放出することもできます。また、実験装置をそこから外に出して、宇宙環境を利用した実験を行い、終わったらまたすぐに戻してサンプルだけを補給船で地上に返し、ふたたび補給船で次のサンプルを打ち上げることも可能です。

 これまで船外で実験を行うとなると、船外活動をやらなければならなかったり、専用の補給船をつかう必要があったり、かなり大がかりな準備が必要でした。それがさまざまな補給船で適宜打ち上げ、回収ができるようになった点はとても大きな変化だと思います。

大西卓哉(おおにし・たくや)
JAXA宇宙飛行士
1975年、東京都生まれ。1998年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後、全日本空輸入社。2003年、全日本空輸運航本部に所属。2009年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)より国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として油井亀美也、金井宣茂とともに選抜される。2013年、ISS第48次/第49次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命される。
提供:JAXA/NASA

――実験の成功に向けて、特に準備しておくべきことはなんでしょうか?

 どんな実験をやるかは本当に直前までわからず、あるいは現地でスケジュールが変わり、本来やる予定ではなかった実験を担当することになることも十分に考えられます。そのため、私たちは一般的なスキルの訓練を受けています。そのスキルをもとに、さまざまな実験に対応するのが宇宙飛行士の仕事だといえます。

 なお、スケジュール変更を行う場合はすべて現場での対応になるため、地上の管制チームと密接な協力も必要になります。そのため私は、日本に帰ってくる機会を生かして、そういう人たちとよくコミュニケーションを取るようにしています。

 地上側は、どうしても宇宙飛行士に対して遠慮しがちです。私自身も地上の管制員として働いた時期にそれを見てきましたが、宇宙はいま忙しそうだからこれをお願いしてもいいのかなと気を使います。それはほんの些細なことではありますが、とても非効率だと思います。一言聞いてくれれば30秒で解決する問題を、聞かずに済ませようとするあまり、遠回りして答えを得ようとしているのですから。

――具体的にどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

 顔を合わせての打ち合わせもしますし、夜、一緒に飲みに行くこともあります。私から誘うこともあるし、誘ってくれることもありますよ。食事の席では仕事の話も多いですが、とりとめのない話もたくさんします。「今日は奥さんに怒られた」とか(笑)。

 背伸びをしていいことはありませんよね。「何でも聞いてください」と言うだけでなく、本当に聞きやすくなるように、普段からなるべく近い距離感でいることが大切だと思います。宇宙飛行士といえども、けっして完全な人間ではありません。それを理解してもらうためにも、自分が本当に弱い部分や悩みもさらけだすようにしています。

 油井飛行士は、彼らとの信頼関係構築をすごく上手にやっていました。地上側に話を聞いても、とてもやりやすかったと言っています。油井さんとも何度か食事に行き、その辺のコツは聞いているので、彼のやり方を踏襲しつつ、自分でも工夫しながらやっていきたいですね。

――組織内でのコミュニケーションも重要ですが、これからは対外的にも発信される機会が増えると思います。特に大切にされている面はありますか?

 壁をつくらないようにしようとは心がけています。それから自分の言葉で、自分の気持ちに正直になって話すことは、コミュニケーションの基本だと思っています。

 JAXAの宇宙飛行士という立場上、どうしてもこのように言わなければならない、ということもあります。しかし、「こう言ってください」と指示通りにそのまま発言しても、やっぱり相手に伝わらないんですよね。言わされている感じがどうしても出てしまいますから。

 自分で納得して、「たしかにそう思うから、自分の言葉に置き換えてこう言おう」という工夫は、コミュニケーションで本当に大事なところかなと思いますね。本心ではそう思っていないような言葉では響きません。

――「グーグルプラス」でも積極的に情報を発信されていますが、それは多くの方に仕事を身近に感じてもらうためですか?

 それほど意識はしていませんが、私たちがどういう仕事をしているのか、どんな生活をしていて、今日は何に失敗したのかもできるだけ発信していきたいとは思っています。

 過去の日本人宇宙飛行士に限らず、世界の宇宙飛行士の情報発信は、地球の写真を撮り、「こんなにきれい」というメッセージが主流でした。もちろん、宇宙に関心を持ってもらううえでは、それもすごく大事なことですが、それはやり尽くしてきたのではないかというのが個人的な感想です。そのため私は、宇宙ステーションの中で何をやっているのかに主軸を置き、紹介していきたいなと思っています。

 また、そこでも着飾らないでいることは意識しています。きれいごとばっかり言うのが、私はあまり好きではなくて。なるべく、自分が思っていることをフランクに伝えようとは心がけています。JAXAの中では、あまり特徴がないとか言われることもありますけど(笑)。

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