効果的なコミュニケーションは、
ちょっとした実験から生まれる

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税金滞納者への督促状は、文面によって効果が大きく異なる。顧客や従業員へのコミュニケーションのあり方を実験によって確かめれば、さまざまな改善の余地と好機が見つかるかもしれない。


 税金滞納者が、下記の督促状のどちらかを受け取ったと想定してみよう。

文面1:本状は、あなたが納めるべき税金5000ドルが未納であることをお知らせするものです。必ずご連絡ください。

文面2:本状は、あなたが納めるべき税金5000ドルが未納であることをお知らせするものです。あなたがお住まいの地域では、すでに10人のうち9人は納税済みです。必ずご連絡ください。

 イギリスの税務当局HMRC(英国歳入関税庁)は長年にわたり、文面1のような督促状を送ってきたが、必ずしも最善の方法とは思っていなかった。というより、文面についてまったく気にかけてこなかった。所詮は通知書の1つ、行政上必要な作業にすぎなかったわけだ。

 しかし2010年、イギリス政府内に「行動インサイトチーム(BIT)」の名で知られる行動科学者のチームが発足すると、督促状の効果を測るテストが行われた。HMRCにとっては面倒な事務仕事だったものを、BITは好機と捉えた。すなわち、行動経済学と社会心理学に基づく洞察を督促状に取り入れることで、滞納されている税金を回収できるチャンスと考えたのだ。

 BITは2種類の異なる督促状を送付する実験を行った(英語報告書)。無作為に選んだ一部の税金滞納者には文面1のような通知を、その他の滞納者には文面2のような(心理学者が「社会規範」と呼ぶ概念を取り入れた)通知を送付した。

 その結果、1の督促状は2よりも効果が低く、年間数千万ポンドもの政府予算が無駄になっていることが判明した。2の督促状を読んだ滞納者は態度を改め、未納分を納めるようになったのである。

 この事例からは2つの教訓が得られる。第1に、人間は誰しも、何が最も効果的か(どちらの督促状がより有効か)、またそれによってどの程度の違いが生じるかについて、勘で察することができる。しかし、優れたマネジャーは「自分の直感は外れることもある」と考えるだけの謙虚さを持ち合わせている。換言すると、実験とは重要なマネジメント手法の1つであり、効果の有無を明らかにする手段なのだ。

 第2に、この督促状のように、本当に有効かどうかを検討せずに同じことをただ繰り返している事例は枚挙に暇がない。マネジャーはそうした状況が何を意味するか、つまり「不要なリスク」であることを知る必要がある。実験によって効果の有無を測定できるのだから、憶測で判断すべきではない。社内を見回せば、実験の機会が至るところで見つかるはずだ。

 コミュニケーションに関する実験をする際には、次に挙げる事柄を考慮するとよい。

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