人を活かすことこそ経営者の仕事
――書評『偉大な指揮者に学ぶ無知のリーダーシップ』

企業の組織を音楽のオーケストラやジャズに喩えることが多いが、その決定版とも言えるのが、『偉大な指揮者に学ぶ無知のリーダーシップ』である。クラシックの指揮者を「リーダー」として捉えた本格的なリーダーシップ論だ。

 

指揮者を「リーダー」として考察する

 企業を、スポーツや音楽の組織に喩えることがままある。それは集団でひとつの成果を出すという共通点があるからだ。そんな中でオーケストラという組織を本格的に企業の組織論へと昇華させたのが、本書『偉大な指揮者に学ぶ無知のリーダーシップ』である。

 著者は現役のプロ指揮者であり、かつその経験から企業などでリーダーシップ研修の実績を積んできた。ゴールドマン・サックス、メルク、クラフトフーズなど錚々たる企業が彼の教えから学んでいる。これまでオーケストラの指揮者を芸術家として見たことはあったが、「リーダー」として見たことはあったか――本書の意外性の一歩はここにある。

 内容は冒頭から常識を覆す。リーダーに必要だとされる、「知識」「スキル」「経験」の3つは、本来の必要性の半分しか説明していないと始まる。そして、「無知」「ギャップ」「メインリスナー」の3つこそ、偉大なリーダーがチームの力を引き上げる要素である、というのが本書の主題である。

 経験や知識はしばしば新しいことに挑戦することを阻む壁となる。とりわけ過去の延長線上に事業の未来が見えない今日、新しく考えるスキルが重要だ。そこで著者は、「あえて無知であろうとし、答えを求めず予測すらしようとしない姿勢」の重要性を強調する。この姿勢によって、さまざまな人の意見を聞こうとする姿勢が生まれるのだ。

「ギャップ」とは、リーダーの考えとメンバー個々の考えのギャップである。通常、リーダーは違いを避けたがり、共通項を見つけようとしがちだ。しかし、著者はギャップこそ注目すべきであり、そこから新しいものが生まれると信じる。

 3つ目の「メインリスナー」はいわば傾聴である。新しい知識を集め、それらの違いを認識する最重要の姿勢こそ、傾聴である。それはメンバー一人ひとりを操作的に動かそうという発想ではなく、一人ひとりを受容しようという姿勢が前提となる。

 これら3つを鑑みると、そこにはメンバーに対するゆるぎない信頼が前提として横たわる。人は誰しも独自の個性と強みがある。それらを引き出し、1つの方向にまとめ価値を最大化することに重心を置く。思えば、オーケストラはプロの演奏者の集まりである。そして指揮者はその中で唯一、音を出さないメンバーだ。まさに経営者とは、自らがいい音を出すことに価値があるのではなく、引きだすのが仕事だ。

 クラシックの好きな人は本書を十二分に堪能できるのは間違いない。その一方で、本書はクラシックに縁のない読者も引きつける。それは組織論として、何の違和感がないからだ。その上で、カラヤンやバーンスタインといった名前だけでも知っていれば、彼らのリーダーシップ像の事例がよりよく理解できる。つまり、「偉大な指揮者」と呼ばれる人は、等しく「偉大なリーダー」であることに納得できるはずだ。
 

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