ビジネススクールにとっての新興国ビジネス

1

多くの海外ビジネススクールが、新興国ビジネスの研究に取り組んでいる。中でもINSEADは新興国ビジネスの専門家を多数擁し、さまざまな角度から研究を行っている。その研究組織が2014年にスタートした。これを統括するパドマナバン教授に、新興国ビジネス研究の最新動向について話を聞いた。

ビジネススクールも新興国に取り組む時代

後藤(以下色文字) INSEADのようなトップビジネススクールが、新興国市場専門の研究機関(Emerging Markets Institute, EMI)を立ち上げたのは、興味深い動きだと思います。なぜそのような組織を立ち上げたのですか

パドマナバン教授(以下略) まず、新組織を立ち上げた経緯からお話しましょう。EMIは設立して1年ほどで、まだ生まれたての組織です。

パディー・パドマナバン
Paddy Padmanabhan
INSEAD教授(マーケティング)

INSEADの新興国研究機関Emerging Markets Instituteのアカデミックディレクター。ノースウエスタン大学ケロッグビジネススクール客員教授等を経て現職。アジア国際経営幹部育成プログラム、上級経営幹部向けリーダーシッププログラム(インド)などを統括する。

 ある時、学長と私は研究について議論していて、INSEADを他のスクールと比べると、新興国市場のビジネスに関係ある研究を行う教員が多いことに気づきました。そこでそうした教員に話を聞いてみると、「新興国」の切り口で研究の生産性を高めるような統括体制があると助かるという意見が出ました。そのため我々は新組織を設立し、新興国市場の成長とビジネスに関係ある研究を束ねて促進することにしたのです。

 研究を通じて、新興国市場の経済と社会の発展にどう貢献できるか。そしてINSEADのミッションである、善を実現する力となることを、どう推進できるか。EMIの立ち上げではそうしたことを考えました。設立にあたっては、ここシンガポールの経済開発庁とじっくり話し合い、シードマネーを提供してもらいました。これには非常に感謝していますし、また卒業生からの寄付金も含めて資金を調達することが出来ました。

――シンガポール政府がこの研究機関を援助しているのですか。

 はい。ただし、EMIはあくまでINSEADの内部組織です。新興国市場が発展を続ける中で、シンガポールのような国はどのような役割を果たせるか。経済開発庁はシンガポールの経済全般を担当しており、そこに強い関心があるので、資金を提供してくれました。シンガポールが他の新興国の発展を助けるだけでなく、それを通じてビジネスと知識のハブとしてのシンガポールをどう再活性できるか。彼らはそれを考えています。

後藤将史
デロイト トーマツ コンサルティング グローバルマネジメントインスティテュート 執行役員 パートナー
グローバル経営のトレンド、特に新興国企業の動向に関する研究に従事する。著書に『グローバルで勝てる組織をつくる7つの鍵』(東洋経済新報社)。INSEAD経営学修士、オックスフォード大学経営研究修士。早稲田大学非常勤講師。

――シンガポール政府のような外部からの支援も受けて、どのような活動をしているのですか。

 第一に、研究者に対して研究データ取得に必要な資金を提供しています。新興国での研究で最も障害となるのは、データが無いことなのです。我々は、一種のデータセンターを作っていこうとしています。

 もう一つには、新興国市場に問題意識を持つ外部の人と研究者が情報交換して生産性を高める、特別フェロー制度を設けています。外部有識者をフェローとしてキャンパスに招き、宿泊施設に滞在してもらい、研究者と共に知的アウトプットを作るのです。フェローにはもちろん学識経験者も含みますが、実務家も少なくありません。我々が関心を持つ実務家とは、新興国市場での実地の経営経験と、そこで輝かしい何かを立ち上げる情熱にあふれた人々です。我々は幅広いタイプのフェローに興味を持ち、様々な人を招待しています。

――新興国企業(EMNC)のリーダー層ともコラボレーションするのですか。

 もちろんです。それもこの制度の基本的な考えです。我々はコラボレーションにあたっては非常に柔軟で、EMNCも含めた多様な相手を招いています。

――他のトップビジネススクールも、同じような方向を目指していると思いますか。

 一歩引いて考えてみてください。自分たちをグローバルな存在だと思うプライドあるビジネススクールなら、キャンパスが世界のどこであれ、いまどきこれと同じようなことをやっているか、少なくとも新興国市場関連の研究に取り組む研究者がいるはずです。

 我々には新興国市場を研究する研究者が特に多く、その厚みをどう活かしてより生産性を高めるかに取り組んでいます。欧米や日本に対して、我々には新興国に囲まれたシンガポールという立地の優位が有り、容易に現場に触れ、感じ、経験することが出来ます。さらに、我々のMBAやエグゼクティブプログラムには、世界中から多様な参加者が集まります。参加者がコースを学ぶ一方で、我々も彼らの経験に学びそれを研究に活かすという、素晴らしい関係が築けるのです。

次のページ  新興国人材のモチベーションを理解する»
1
Special Topics PR
Decision Maker 関連記事
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS