もはや、ゴジラのような企業が
勝てる時代は終わった

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いま、あらゆる企業に変化が求められているといわれるが、具体的に何を変えるべきなのだろうか。ローランドベルガーグローバルCEOのシャレドア・ブエ氏は、「LFP(Light FootPrint)」という概念を用いて、ゴジラのような大企業が現代で勝ち残るためには、技術、組織、そして文化を変革する必要があると説く。(写真/鈴木愛子)

いま、すべての企業に「LFP」が求められる

――ブエさんは、変化が極めて激しい現代を「VUCA(ブカ)」という言葉で表現されています。まず、VUCAについて教えてください。

シャレドア・ブエ(以下略) 「VUCA」とは、1995年頃から使われ始めた軍事用語です。これは軍事以外にも適応できると考えました。

 文字通り、VUCAは「V」「U」「C」「A」という4つの単語の頭文字から成り立っています。Vは「Volatility」、すなわち物事が変動すること、何が起こるのか予測しがたい「不安定性」を示します。Uは「Uncertainty」で、今日はそうであっても明日は急に変わる「不確実性」を意味します。Cは「Complexity」、つまり複雑性です。たとえばエンジニアは、非常に複雑な体系の中で生きています。かつては、自動車をバラバラに分解しても、その部品をただ組み立て直せば同じ車ができあがりましたが、いまはそうではありません。さまざまな要素が複雑に絡んでいるため、それをいかにマネージするかは非常に難しい状況になっています。そして最後のAは「Ambiguity」、つまり「曖昧模糊」であることです。サプライヤーにも、クライアントにも、あらゆるところでいろいろな変化が起きています。昨日は味方だった企業が突然競合になる状況も珍しくありません。それらを見通せない環境を示しています。

――VUCAの文脈の中で、さらに「LFP」という概念を提唱されています。これは何を意味するのでしょうか?

シャレドア・ブエ(Charles-Édouard Bouée)
ローランド・ベルガーグローバルCEO
フランスのグランゼコールのひとつであるエコール・セントラル(ECP)で修士号、パリ大学で法学修士号を取得。その後、米国ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。ソシエテ・ジェネラルでインベストメントバンカーとして活躍した後、経営コンサルタントに転身。2001年にローランド・ベルガーパリ事務所に入社後、2006年グレーターチャイナの統括責任者に就任。2009年以降、アジア地域の統括責任者を務め、2014年にグローバルCEOに就任した。

 そのきっかけは、クライアントからこんな質問を受けたことです。「私たちはたしかにVUCAの環境にいる。では、これにどう対処すべきでしょうか?」。その解決策を与えてくれるのが、米国のバラク・オバマ政権のときに誕生した軍事用語の「LFP」という言葉です。

 米国の中東戦略では、大規模に長期で兵士を派遣することによる財政負担や、兵士あるいは巻き添えになった市民の犠牲が課題になっていました。課題はそれだけでなく、そもそも、アルカイダのような新たな敵に対抗するためには、新たな戦い方を講じる必要がありました。そこでオバマ政権は、従来のように大規模な地上軍を投入し続ける消耗戦は避け、少数精鋭からなる特殊部隊や無人航空機「ドローン」などの最先端技術を駆使して、ピンポイントで大きな戦果を挙げうる戦い方に方針転換したのです。これをそれまでの「Heavy FootPrint」 に対して「Light FootPrint」と表現しました。

 LFPは「Light FootPrint」の略語です。これは「素早く身軽な経営」の重要性を意味します。言葉通り「Light」、つまり「軽い、軽快な、身軽な」の重要性を示していますが、VUCAの世の中になる前の状況では、ゴジラのような図体が大きな企業が勝ち組でした。しかし、いまはそうではありません。むしろ図体が大きいがゆえの脆弱性があります。VUCAの時代は非常に敏捷性の高い、フットワークの軽い会社をつくるべきだと考えています。加えて、それが足跡として残るように長期間のインパクトを残すことも求められるのです。

 LFPを言い換えて「TOC」という言葉でも表すことができます。「T」はテクノロジー(Technology)を意味し、技術を十分に活用していくことが大切です。これはデジタル分野に限らず、人工知能やロボティクス、ナノマシーン、バイオミックスなど、それ以外の新しいテクノロジーも含んでおります。それら最先端のテクノロジーをフル活用することで、競争優位に立つことができます。これは社外のみならず、社内の活動にも活かすことが大切です。

 ただ、どれほどテクノロジーをフル活用しても、そこに人がいなければまったく意味をなしません、そこで「O」、つまり組織(Organization)の変化が必要とされます。その組織とは、敏捷性に優れ、フラットであり、他の組織とアライアンスを組む必要があれば実施する非常にオープンな組織です。物事を成し遂げるためにタスクフォースを立ち上げることもあるでしょう。付加価値のないところに技術を活用して付加価値を生むことも含みます。これからは、そういう組織で動いていくということです。

 ここで非常に重要なことが二つあります。一つは、テクノロジーは万能ではないということです。優れたテクノロジーがありさえすれば問題をすべて解決できる、人間はそれほど重要ではないという考え方も見られますが、そうではありません。それほど付加価値を生み出さない仕事をロボットに任せることは、すなわち、人間にはより付加価値があるものをやってもらうことを意味します。つまり、より人を重要視する考え方なのです。

 もう一つ重要なのは、すべてを自社でやることにこだわらず、必要なものを必要なところから調達することです。VUCAやLFP以前の世界では、たとえば1万5000人が研究開発に従事し、10億ドルを投資して、やっと新しい何かを生み出すということがありましたが、いまはそうではありませんよね。クラウドソーシングやクラウドファンディングのように、何か新しいものを見つけるときには、オープンに10億人を使うことができます。必ずしも自社ですべてをやるのではなく、会社というものの枠を拡張する。これはとても大きなパラダイムシフトです。

 その結果、リーダーに必要とされる資質も非常に大きく変わってきています。政治家のリーダーであっても、大企業のリーダーであっても、彼らに必要な資質とは、どこからどうやって必要な知識リソースを取ってくるのかになりました。いいアイデアがあれば、どこのグループからでも引っ張ってくる。それによって新しいアイデアや新しいビジネスモデルが出てくるのです。それこそまさにLFPの発想だといえます。ただし、研究開発が企業によってなされなくなるということではありません。たとえば製薬会社の場合、自社で研究開発は続けることになるでしょう。これはオープンマインドであることの重要性が高まるということです。

 たとえば、Airbnb(エアビーアンドビー)のように、ホテル会社ではない企業が宿泊業を始める。ウーバーのように、タクシー会社ではない企業がタクシー業を始める。こうしたシリコンバレーで見られる現象は至る所で起きています。彼らのようなスタートアップが波乱要因になることで、従来型の大企業は揺さぶられているのではないでしょうか。市場では注目されていなかった企業が急速にシェアを持つような現象が、毎日のように起きる事態こそLFPです。その結果、ゴジラのように大きな会社であっても、予想外の事態に見舞われているのが現状なのです。

 そして、「TOC」の最後の「C」、これは文化(Culture)です。実は、このCが最も重要と言えるかもしれませんが、その重要性に触れる人たちはけっして多くありません。文化とは、人が集まったところに生まれます。国家、都市、企業など、人が集まったところに文化はつくられ、さまざまなルールができ、それが歴史になります。LFPにおいても、そこには人の集まりがあるので、文化がなければ意味をなしません。だからこそ、文化はLFPの柱となっているのです。

 いま、非常にオープンで、かつ強いカルチャーが求められています。私の本(『LFP』)の中では、日本のコンセプトである「現場」を紹介しました。近代的な組織にも現場という概念が一番フィットすると思っています。現場、つまり前線にいる人たちが文化を構築するうえでは非常に重要であり、現場のカルチャーこそLFPにとっても非常に大事なのです。

 現場は、非常に人間らしいコンセプトだと思います。人間である以上、どこかに所属する場所が必要です。自分がそのコミュニティ、共同体の一部であると感じる必要があるのです。自分は現場にいる、その一部だという気持ちを持つこと、そして、その現場を大事にするということが、組織が長続きする秘訣だと考えています。

 技術と組織、そして文化、この3つがLFPをつくり上げているもととなっています。一見すると非常にシンプルに見えますが、企業がこれを十分に実行しようとすると大きな困難が伴うものでもあります。

――制度などすでにさまざまなものが固定化されている大企業が、最新のテクノロジーを導入し、組織を変え、文化をつくり直すのはベンチャー企業以上の困難が伴います。そのためには何が必要だとお考えでしょうか。

 私のクライアントと話していても、「自分たちはどうすればよいのか」と質問されることがあります。大企業の場合、ベンチャーに投資すれば解決策が見出せるという話ではありません。そうではなく自分たちを変革すること、それこそが最も大切です。

 たとえば鉄道業界やマスコミ業界はその代表ですが、彼らはずっと古い世界でやってきています。ただ、新しい世界に移るからといって、いまいる人たちをすべて放って、技術についてよくわかっている若い人たちに入れ替える必要はありません。両者を結びつけていくことが大事なのです。既存の事業はそのまま続けながら、同時に、新たな技術を導入し、新しい組織にして、新しい文化を入れる。いままでのことと新しい動きの間をうまく橋でつなげることが重要です。

 なかには、LFPはテクノロジー中心の概念であり、すべてがテクノロジーの話だという人もいますが、それは誤解です。テクノロジーは十分に活用しながら、組織を革新的なもの、先進的なものにしていくということを意味します。おっしゃる通り、大企業はLFPのノンネイティブであり、ゼロから始めなければいけないかもしれませんが、既存事業を強化するのと平行して、VUCAの環境に適応できるよう変革を起こしていくということですね。

 もちろん、VUCAになったからといって大企業がすべて消えてしまうということはありません。ただ、企業の規模は問わず、VUCAをきちんと理解しない、そのために必要な変革をしないところが消えていくでしょう。

 自動車業界で考えてみましょう。いま自動運転が注目を浴びていますが、そこには単に技術だけではなく、組織をつくり上げたうえでそれを運用することが必要です。その意味では、BMWやトヨタのような自動車会社はもちろん、LFPをしっかりできれば、グーグルやアップルといったすべての企業が参入できます。どんな会社も自動車会社になる可能性を秘めているのです。

 2015年、複数のドイツ自動車メーカーがマッピングシステムの企業を買収しました。その狙いは、自動運転の実現に向けた開発の中で、先行して優れたマッピングシステムを有する企業を取り込むことにより、自動運転の開発の早期化を促進し、また自動運転の質を左右するマッピングシステムを持つことで地図の上手な使いこなし方に注力するというものでした。

 これがまさに、LFPによって世界がよりよくなる事例の一つだと思います。LFPのノンネイティブだった企業でも、こうした試みによりLFPネイティブになれることを示しているからです。LFPノンネイティブの会社は、顧客基盤やロジスティクスのように多くの資産をすでに持っているため、それを活かすこともできるでしょう。

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