仕事を「自分ごと」だと思わせるだけで、
従業員の意欲や生産性は劇的に上がる

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従業員の意欲や愛社精神を高めるには、オーナーシップ(当事者意識、自分ごと化)が重要だとよく言われる。組織構成や報酬制度の大規模な改革が必須なわけではない。オフィスを自由に飾らせるといった些細なことでも、「所有意識」を誘発するだけで効果があるという。


 ほとんどの人は職場で長い時間を過ごしている。にもかかわらず、自分の仕事に充実感や意欲を感じていない人は多い。ギャラップが2014年に実施した米国の従業員エンゲージメントに関する調査では、仕事に「意欲を持って取り組んでいる」と回答した人は3分の1以下で、51%が「意欲を感じていない」、17.5%が「仕事を嫌っている」と答えている(英語サイト)。残念ながら、世界を対象とした調査も同様の結果を示している。

 多くのビジネスリーダーは、こうした憂慮すべき数字を前に、大きな変革によって社員の意欲を高める方法を模索している。

 だが、朗報がある。私の研究によると、社員の意欲と幸福感、そして生産性は、小さな施策によって劇的に向上できるのだ。その方法とは、社員の「心理的オーナーシップ(psychological ownership)」を高めることである。たとえば、家族の写真やお気に入りのポスターでオフィスを自分好みの空間にしてもらう、肩書きの呼称を自分で決めさせる、アイデアやチームメンバーや製品が「自分のもの・こと」だという感覚を抱かせる、といった方法だ。

 心理的オーナーシップとは、何かを自分のものにして、それらと精神的なつながりを持つ経験を指す。こうした意識は人間の生活の根本を成すものだ。私たちは日々の暮らしのなかで、多くの有形・無形のものを所有し、関わり合っている。また、心理的オーナーシップは何かを認知することだけではなく、情動にも関係がある。モノ、人、仕事など何であれ、それを「私の○○」と呼ぶ行為は、その対象に感情的なつながりを見出している表れだ。

 社員の多くは、仕事への心理的オーナーシップをより強く持ちたいと望んでおり、それによって満足感と幸福感が高まると考えている。マネジメントの研究によると、その期待は的を射ているようだ。たとえば、ミシガン州立大学のリン・ヴァン・ダインとミネソタ大学ダルース校のジョン・L・ピアースの研究がある(英語論文)。従業員800人あまりのデータをもとに調査したところ、組織に対する心理的オーナーシップは、従業員の態度(仕事への満足感、組織へのコミットメント)と、職務行動(仕事の成果、組織市民行動)の両方と正の相関が見られた(組織市民行動とは、組織への自発的で無償の貢献行動)。

 特定の対象(アイデア、職場、グループ、組織など)への心理的オーナーシップが行動に及ぼす影響については、これまで多くの研究がなされてきた。しかし、その影響は直接的な行動だけにとどまらない。私の研究によると、オーナーシップは「所有意識(mindset of possession)」を引き起こす。ひとたびその状態になると、他のさまざまな状況やタスクに対しても持続的に作用し、その後の選択に影響するのだ。

 この所有意識が職場で強く影響力を示した実例を紹介しよう。スタンフォード大学のアリア・クラムとハーバード大学のエレン・ランガーは、ホテルの清掃係を対象に実験を実施した(英語論文)。一方のグループには、「米国公衆衛生局長官が薦める“活動的な生活習慣”に照らし合わせると、あなたの仕事はよいエクササイズになっている」と伝える。かたや対照群には、このメッセージを伝えない。4週間後、両グループの行動に変化は見られなかった。どちらの清掃員も、仕事中により活動的になる(運動量を増やす)ことはしていなかった。

 ところが、である。仕事がよいエクササイズになると言われたグループは、「自分はよいエクササイズをしているのだ」という「意識」を、以前よりも強めていた。そしてなんと、彼らの体重・血圧・体脂肪・ウエスト/ヒップ比率・BMI(肥満度)がいずれも減少していた。実際の活動ではなく意識が、体内に作用して好ましい変化をもたらしたのである。

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