新入社員には業務内容や組織文化より、
まず「自分らしさ」を意識させなさい

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ありのままの自分を他者に認めてもらいたい、というのは人の根源的な欲求だ。新入社員に「自分らしさ」(オーセンティシティ)を意識させる研修を施すことで、パフォーマンスと生産性を向上させた事例を紹介する。


 企業が従業員を雇う目的はほとんどの場合、決められた一連の業務を遂行してもらうためである。募集したい職種を告知し、見劣りしない報酬を提示すると、応募者の列ができる。食費や賃借料などの生活費を必要とする人の列だ。この場合、仕事とは目的を達するための単なる手段である。

 企業がこの典型的なシナリオに沿って新たな従業員を雇った場合、雇用初日に「成すべき仕事」と「行動規範」について説明する。それによってリーダーは、少なくとも短期的には、当該業務の成果を予測し管理しやすくなる。

 だが、このような雇用のアプローチでは、最も生産的で創造的な職場環境を生み出すことはできない。

 我々は過去10年間にわたり、幅広い業界の多数の企業を対象に、新入社員がどのように教育されているかフィールド調査を実施してきた。対象業界は、エンターテイメント、ソフトウェア、金融サービス、製造、小売り、コンサルティング、ビジネスプロセス・アウトソーシングなどが含まれる。調査を通して、ほとんどの組織で新人研修の目的は共通していることがわかった。それは組織文化と仕事の要件について教え込むことだ。

 しかし、これとはかなり異なるアプローチもあった。新人に対し、自分らしさ(オーセンティシティ)を大事にして、仕事で自己を表現するよう促すものだ。このやり方は伝統的な研修方式よりコストがかかるわけではないが、リーダーには新しい考え方が求められる。

 人間の特徴の1つとして、「ありのままの自分を認めてもらいたい」という欲求が挙げられる。本当の自分の価値を認めてもらえると、充実感を得られる。我々の研究によれば、人は自分ならではのモノの見方や強みに気づき、それを仕事で活かすことができると、意欲が高まる。そうなれば、仕事はもはや目的のための単なる手段ではない。だが、たいていの組織はこの力の源泉を活かしていないため、従業員の能力を最大限に引き出せていないのだ。

 我々は新入社員に焦点を当てた研究を通して、企業がどうすれば新人研修のプロセスで「自分らしさの表現」を促せるか検証した(英語論文)。新人として組織に加わる時には、新たな社会環境で新しいスタートを切るという、滅多にないチャンスが与えられる。みずからのアイデンティティを仲間たちに示し理解してもらう、絶好の機会だ。

 研究では次のことがわかった。「ありのままの状態で、かつベストな状態の自分」を他者に知ってもらうことは、非常に魅力的な体験であり、意欲が高まり、持続的な効果があるのだ。

 研究対象となった組織の1つ、ウィプロBPOを例に考えてみよう。インドを拠点とするビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)業界の世界的リーダーである同社は、グローバル規模のクライアント企業の顧客に対し、電話やチャットでのサポートを提供している。その主な内容は、サービスや製品に関する問い合わせ(航空券の購入、プリンターの設定など)への対応だ。

 BPO業界では、年間離職率が50%から70%にも上るのが常である。ウィプロでもあまりに多くの従業員が、入社後ほんの数ヵ月で燃え尽きて辞めてしまっていた。この仕事がストレスに満ちている理由は、問題を抱え苛立っている顧客に対応するからだけではない。インドのコールセンターの従業員はしばしば、行動様式の多くの部分を「脱インド化」するよう求められるからだ。たとえば、欧米式のアクセントや態度を身につけるなどである。

 他の多くの企業と同じように、ウィプロの従来の新人研修プロセスは、企業文化と職務行動規範を教えることにのみ重点が置かれていた。我々は2011年に、ウィプロのオペレーションセンター3ヵ所の新入社員605人を参加者として、フィールド実験を実施した。オーセンティシティ重視のアプローチが、従来の研修方法よりも高いパフォーマンスと定職率につながるかどうかを検証するためだ。新入社員を3つの条件のいずれかにランダムに割り当て、初日は、各グループに対して異なる研修を行う。2日目以降の研修プロセスは同じとした。

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