日本の住宅問題は20年前から進歩していない

問題解決の方法論〈5〉

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住宅供給の良循環を駆動するのは
「プロパティ・インプルーブメント」という価値体系

――前回、住宅供給の仕組みに問題があるという点について、横山さんが1992年に取り組んだ住宅供給システムのOSデザインについてうかがいました。続きをご説明いただけますか。

 最近でこそ、リフォームやリノベーションという言葉をよく聞くようになりましたが、1992年当時から住宅市場にリフォーム市場はありました。しかし、リフォームすることで、不動産の価値を上げるという発想はありませんでした。土地ではなく上屋の価値を評価するシステムは存在しなかったのです。今もその状況は変わっていません。最近、お役所もやっとそれを問題にし始めたようですが。

横山禎徳
東京大学EMP 特任教授

 住宅市場においては、現在も土地と建物がばらばらで評価されるため、建物にお金をかけて改良を重ねていっても、その価値は個々の建物の質とは関係なく、法定償却されて毎年価値が落ちていきます。売却する段になると、結局、建物の価値は限りなく小さく、土地の価値でしかなくなってしまう。だから、中古住宅市場が育たないわけです。

 土地建物一体の不動産価値評価システムができ、リフォームが普及して中古住宅市場という「二次市場」が拡大すると、新築住宅の「一次市場」が縮む、つまり新築が売れなくなるという議論があるが、先ほどの「ウサギ小屋」同様、これも本当にそうだろうかと疑って考えるべきでしょう。住宅市場はそんな単純なロジックでは動いていません。

 詳しくは述べませんが、新築、中古が一体になった市場形成ができるようになると買い替えサイクルが今よりも短くなる可能性が極めて大きいし、持ち家市場ではなく、自助努力の余地のない賃貸市場が縮む可能性もあり、かえって新築市場が拡大するというシナリオもあり得るのです。

――建物の改良は評価されないのですね。

 そこで、「プロパティ・インプルーブメント」(土地と建物一体の不動産改良)という世界で常識になっている概念を入れて、その評価が住宅市場の価格形成できる仕組みをつくれないかとました。自分の努力によっってセール・バリューを向上できるようにするのです。

 土地の値上がりは人任せだが、自分が買った住宅に手を入れて改良すれば、プロパティ・インプルーブメントとして認められ、市場での価値が上がる。中古住宅を買い、手を入れて改良しながら一定期間住んだあとで、そのグレードが上がった状態で中古住宅市場に出して買った時よりも高く売ることができる。そうすれば、次はもう少し高い中古住宅を買うことができますよね。

 それを何回か繰り返し、資金をためながら、最後に自分の本当の好みの家を手に入れる。あるいは好みの家を新築するというプロセスができれば、若い時期から計画的に住生活を組み立てることができるのです。別に非現実的な話ではなく、アメリカでは通常やられていることです。

 これを繰り返すことで、住宅を見る目も養われていくはずです。住宅のことがよくわかった、欠陥住宅に簡単にはだまされないだけでなく、自分が本当に欲しいものがよくわかった消費者が育っていきます。いろいろな「良循環」が回り始めますね。

 土地価格だけでなく、建物の質が高ければ、それが不動産価格に反映されるような評価の仕組みと、そうやって付けられた価格で中古住宅を売買できる市場が形成されている必要があります。そういうことを目指した住宅供給システムをデザインすることを考えました。

 残念ながら事業化まではいきませんでしたが。

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