脳活動の視覚化がマーケティングを変える

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ニューロマーケティングの研究が進む昨今、脳は言葉より雄弁であることがいっそう明らかになってきた。脳活動を視覚化するfMRIの技術が、消費者理解にどう役立ちうるのかを改めて知っておこう。


 脳機能磁気共鳴画像(fMRI)装置は、学術界では広く評価されているものの、ビジネス界でマーケティングツールとして使われることはめったにない。ニューロマーケティング(消費者を神経科学の見地から理解し、マーケティングに応用する試み)の会社で働く64人に調査したところ、「これまでにfMRI装置を利用したことがある」と回答した人の割合は31%にとどまった。そして言うまでもなく、そもそもニューロマーケティング専門会社のサービスを利用している企業自体、ごく一部にすぎない。

 一方、ビジネススクールで消費者神経科学を研究している59人に調査した結果は、これとは対照的だった。全回答者の71%が「ニューロイメージング(脳神経画像診断)の技術を利用している」または「利用したことがある」と報告した。

 この差はどうして生じるのか。fMRIが研究者を惹きつける理由は、脳全体にわたる広範な神経活動を調査できる総合的な能力を持つからだ。しかし企業のCMOにとって、投じるコストがいかに短期間で成果をもたらすのかを考えた場合、fMRIによる調査コストは法外に思えるのかもしれない。調査を行うためには、通常は医療施設や大学にある特殊な設備を使う必要がある。また、そのスキャナーを操作するにはかなりの訓練も求められる。そして検出されたデータを分析できるようになるには、専門的知識と時間が必要だ。

 fMRIは、伝統的なマーケティング手法に比べ少なくとも3倍の費用がかかる。にもかかわらず、消費者に意見を尋ねるだけではわからない何かを解明できるという確たる証拠は、これまで十分になかった。したがって、fMRIのビジネス利用を正当化するのは難しかったのだ。

 だが、状況は変わりつつあるのかもしれない。

 最近の複数の研究で、次のことが示唆されている。比較的少人数(30人未満)のグループから検出した脳神経データによって、市場レベルの行動様式が予測可能になる。しかも、予測の精度は伝統的なマーケティングツールよりも高いのだ。たとえば音楽市場の売上高、慈善寄付、禁煙広告キャンペーンの相対的説得力などの予測において、fMRIスキャンのデータは行動調査データに勝ることが証明されている。

 この効力を決定的に実証した1例として、米広告調査協会(ARF)、テンプル大学神経意思決定センター、およびニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのマーケティング学科のメンバーによる大々的な共同研究がある(英語論文)。

 一連の多段階調査では、さまざまな年齢の消費者たちが、企業6社15ブランドの実際のテレビ広告37本を実験室で視聴した。その際に研究者たちは、消費者行動調査でよく使われる6つの手法を比較した。そこには「消費者の自己報告」という伝統的なものに加え、5つのニューロマーケティングの手法が含まれる。視標追跡(視聴者の注意が何に向いているかを調べる)、顔の表情の測定(リアルタイムで進行中の感情的反応を調べる)、心拍数などの生体反応の測定、脳波測定(EEG)、そしてfMRIである。

 実験の目的は、どの手法によるデータが売上げに対する広告効果を最も正確に示すのかを知ることだ。より具体的には、広告弾力性(広告量を1%変えた場合に売上高が何%変わるか)を正しく予測するのはどれかを見極めようとした。

 意外ではないかもしれないが、伝統的な方法(消費者の自己報告)は、広告の効果をかなり正確に予測した。しかしこの実験のポイントは、他のニューロマーケティングの手法が、伝統的な手法の精度を上回るかどうかをベンチマーク評価できるところだ。そして分析の結果、実際の広告効果を測るうえで最も有効な予測因子となるのは、fMRIデータであることが明らかになった。その精度は他のすべての測定手法に勝っていたのである。

 この結果がマーケターにとって画期的な意味を持つ最大の理由は、ごく少人数を調べるだけで大きな顧客ベースの反応を測れるかもしれないことだ。わずか30人の脳のパターンによって、何十万人、場合によっては何百万人もの購買判断を予測できれば、fMRI調査がたとえ高額でも何倍もの見返りが得られるかもしれない。特に多額の予算が絡んでいる状況であれば、いっそう有益になるはずだ。

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