推理小説を読んでいるかのようなビジネス書

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経営学者の楠木建さんの『好きなようにしてください』は、一般読者からのキャリア相談に答える内容の本である。しかしその面白さは、あたかも推理小説のようだ。

読者の考えを遠慮なく、ダメだしする

  自分が読んだ本を人に紹介したくなることが多いですが、それが自社(ましてや自分の編集部)の本である場合、どう紹介すべきか躊躇します。でも書かずにいられないと思ったのが、『好きなようにしてください』です。

著者である経営学者の楠木建先生の過去の本は、どれも好きでした。なかでも『「好き嫌い」と経営』『戦略読書日記』の2冊は、趣きは違えど経営の本質を見事に言い当てている迫力を感じます。

本書『好きなようにしてください』NewsPicksで連載された「楠木建のキャリア相談」を大幅に書き直し書籍化したものです。内容は読者から寄せられた50の質問に楠木先生が答えるというもので、その答えがほぼ「好きなようにしてください」。これがタイトルになりました。僕は連載時に楽しく読んでいました。そして書籍になる前に原稿を読ませてもらいました。さらに書籍が完成してから再度読み直したのですが、なぜこれほど面白いと思えるのかを自分で解き明かしたくなりました。

面白さは3つありました。

ます、回答が極めて「働くこと」の本質から発せられていることです。大企業がいいか、ベンチャー企業がいいか。このような読者の答えに「好きなようにしてください」と言いつつ、御託を並べる。そもそも仕事と趣味は違う。働くとは、「他者のために訳に立つこと」だと断言し、自分の欲と仕事の目標をはき違えていないかと問い返します。仕事とは何かを、これほどシンプルに表現するのは並大抵のことではありません。そして「成功したい」や「経営者になりたい」などの自分の欲を満たすために仕事やキャリアを選ぶこと自体、仕事のなんたるかをわかっていないと明言されます。それこそ一刀両断に読者の考えを、これでもかというほど遠慮なく斬ります。

そして、遠慮のない切り方なのですが、漫談を聞いているかのような文章なのです。これは著者の過去の著作を読んだ方ならお分かりかと思いますが、その魅力は質問者に厳しい言葉を投げかける本書だからさらに際立ちます。時には自分の記事が炎上したことや、時には自分の若かりし頃の未熟さを暴露する。そしてご自身の頭髪さえもネタにする。頭髪に関してはそこまで書かなくてもいいのにというほど自虐的に、自分を笑いの対象にされます。

そのうえで僕がもっとも感動したのは、著者の洞察力です。質問者からの質問はわずか数行にも関わらず、楠木先生は数頁にわたって回答を返します。その中身が、よくここまで相手の状況を察することができるものだと感心してしまいます。

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