Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

“人機一体”で人間はどう変わるのか
「人間拡張工学」がもたらす新しい世界

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労働・移動・所有の概念が大きく変わる

――バーチャルリアリティ、拡張現実感、ウエアラブル技術、ロボット技術などによって、私たちのビジネススタイルはどう変わりますか。

 まず、人の移動に対するコスト意識が激変すると思います。バーチャルリアリティやテレイグジスタンスの進化によって、あたかも対面で話しているかのようなコミュニケーションが図れるようになるし、テレポーテーションのように、光と同じ速度で、世界中のどこでも姿を現すことができるようになるわけです。

 先日、フェイスブックが、バーチャルリアリティ用のヘッドセットを開発するオキュラスを買収しました。SNSの世界こそ、テレポーテーションがぴったりだと考えているからでしょう。テレポーテーションで自由自在に世界を飛び回るようになる日は、それほど遠くはないと思います。

 出張などがなくなり、人が移動しなくなれば、運輸会社は大きな打撃を受けるかもしれません。一方で、客船に乗ることが豪華レジャーになったように、鉄道に乗ることが休日のレジャーになるかもしれません。

――製造業などは、どう変化していくのでしょう。

 極論すると、自動化が困難とされる作業についても、自分の分身となるロボットが工場にいて、それを自宅から操作するといった働き方に変わるでしょう。そうなれば、操作する人はどこの国の人でもかまわなくなります。一つの工場で、さまざまな国の人が働くイメージです。国境の意味は薄れ、海外に出稼ぎに行く必要もなくなります。身体は自宅に置いたまま世界中で働けるからです。

――人間のメディア化についても指摘されています。

 人間のメディア化は、自分の身体の共有化と言い換えることもできます。すでに海外でスタートしている「オムニプレゼンツ」というサービスがわかりやすいでしょう。それは、頭に小型のカメラをつけて、スマホやヘッドホンで指示を聞きくものです。カメラに映るものは、ユーザーからも見えます。

 大勢の人がカメラをつけるようになれば、たとえば、外出先から、家の近くを通りかかった人に親の様子を見てもらうとか、忘れていたネコのえさやりを頼むことができるようになります。さらに、その道の達人にスカイダイビングをしてほしいとか、知人にコンサートを見てきてほしいといった頼み事をしたり、あるいは、これから野球観戦に行くから映像を見たい人を募集するといったこともできるでしょう。カメラを通して、自分の身体を大勢の人が共有するともいえるし、空き時間にアルバイトをしているともいえるでしょう。利用する人から見れば、他人の身体との合体です。

――ビジネスどころか、自分という概念も変わりそうですね。

 会社、自分、社会などあらゆる概念が変わると思います。これまでは、プライベートな時間と会社で働いている時間しかありませんでしたが、自在化が進んでいけば、バーチャルリアリティで会議のために複数の場所に現れたり、カメラを通じて複数の人と身体を共有したり、たとえば足が悪い人と手が悪い人が、それぞれの自宅から合体したように一緒に一つのロボットを動かして作業をするといったことが当たり前になるでしょう。その時に、産業革命から続いてきた労働・移動・所有という概念は大きく変わるはずです。たとえば、これまで自分の身体は常に自分のものでした。しかし、今後は、テレビのザッピングのように、他人のために、ちょっと身体を貸すという状態が頻繁に生じます。時間ごとに仕事や自分の身体の借主が変わるといったことが出てくるでしょう。

 現在は、IT革命の時代といわれていますが、これまでお話したように身体観や人間観が変わった時に、実は次の時代に向かうための産業革命だったと後になって思うのではないでしょうか。そろそろ、その転換期に差しかかっていると思います。

(構成/竹内三保子 撮影/宇佐見利明)

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