未来を予測する最良の方法は、自ら実践すること
――書評『未来に先回りする思考法』

日々進むデジタル革新の方向性を伝える本はあまたあるが、本質的な議論で他を寄せ付けないのが、『未来に先回りする思考法』である。ベンチャー経営者が執筆した本書は、まさにいまの変革を理解する要素が詰まっている。

 

『ビル・ゲイツ 未来を語る』を彷彿させる本

 1995年に刊行された『ビル・ゲイツ 未来を語る』を読んだ当時を思い出した。1995年と言えば、ウィンドウズ95が発売となり、インターネット接続が一般化するスタートとなった年である。そのタイミングでビル・ゲイツは同書で、デジタルの原理を丁寧に解説し、いま起こっていること、そして将来起こることを示してみせた。

 それから20年経ち刊行された『未来に先回りする思考法』は、ビル・ゲイツの同書の読後感を彷彿させる。著者の佐藤航陽氏は、いま注目のベンチャー経営者のひとりである。2011年に、AIを活用したアプリ収益化支援プラットフォーム「metaps」を設立。2015年2月には43億円の資金調達にも成功し、現在世界の8拠点で事業を展開している。

 本書では、著者自身の事業についてはほとんど触れられていない。むしろ、いま起こりつつある技術変革の動きと将来の方向性を示すことに主眼が置かれている。書名には「思考法」という言葉が使われているが、いまという現実を理解するためのイシューが正確にまとめられた本、という印象である。

 著者が解説する、いまの技術変革の記述は実にわかりやすい。ネット技術やAIについては、技術系素養がないと理解できないと考える人が多いようだが、本書の記述は文系の人でも、深いレベルで技術動向がわかるように書かれている。モノをみる視点が本質的であることが、行間から伺えるのだ。

 デジタル技術の現状は誰が書いてもそう変わるものではない。しかし、その現象を「点」として個々を理解するのではなく、一本の「線」として、方向性を理解することの重要性を主張する。それは本書を読むと個々の技術を詳しく学ぶことではないことがよくわかる。むしろ、個々の動きの背景にある本質的理解こそが「差別化」につながるのだ。

 デジタル技術の進化がもたらす社会の変化に話が及ぶ第2章が圧巻である。企業と政府の役割が近づいてくる社会では、貨幣の役割も変わる。そして、新しい社会では「価値」の概念が根本から見直される。2014年、売上げがわずか20億円程度だったメッセンジャーアプリ「WhatApp」をフェイスブックが2兆円で買収したことも、この文脈で読むと非常に納得できる。

 第5章では、変革する社会においていかに意思決定を下すかを語る。ここで著者の真骨頂が発揮されるのは、「自分の納得感よりパターンを重視せよ」というメッセージである。ベンチャー経営者として、IT技術から新しい世界を築こうとしている実践から本書が生まれたのがよく理解できる。かつて、アラン・ケイは、「未来を予測する最良の方法は、未来を創造すること」と語ったが、本書を読むと、「未来を予測する最良の方法は、自ら実践すること」という言葉が浮かんでくる。

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