脳を知ることは
ビジネスを知ることである

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従来のマーケティングリサーチでは、アンケートやインタビューから消費者の嗜好を探り、それを製品・サービスに活かすのが一般的であった。だが、消費者は本当に自分のことを正しく認識しているのであろうか。さまざまな実験により、彼らが言語化したニーズは思い込みである可能性も高いことがわかってきた。真のニーズを探りビジネスで成功を収めるためには、潜在意識、つまり脳を知ることが重要である。NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニット長を務めるなど、ニューロマーケティングの最先端を知る萩原一平氏が、ビジネスと脳の関係を解き明かす。連載は全5回。
 

好きでない女性を見て、
“好き”な理由を説明する男たち

 あなたの目の前には、二人の魅力的な女性の写真が左右に一枚ずつ置かれている。そして質問者から「どちらの女性が好きかを選んでください」と聞かれ、右側の女性の写真を選んだとしよう。

 その後、質問者は両方の写真を一度伏せて、今度はあなたが選んだ右側の写真だけを見せて「なぜこちらの写真の女性を選んだのか」と、その理由を尋ねる。あなたはその写真を見ながら「瞳がきれいだ」「鼻筋が通っている」などの好きな理由を述べた。

 ここまでで話が終わるのであれば、何も面白いことはないだろう。本題はここからである。質問者は手品師であり、2枚の写真を簡単に入れ替えることができた。「あなたが選んだ」と言われて2回目に見せられた写真は、実は、選ばなかった女性の顔が写った写真にすり替えられていたのである。

 そんなことをすれば、「顔が違うのだからすぐにわかるだろう」と思うかもしれない。しかし、この実験で写真のすり替えに気づいた人は全体の3割程度であり、残りの7割の人たちはすり替えられたことに気づかず、選んでいないほうの女性の写真を見ながら、なぜ好きかという理由を述べたという。[注1]

 この話を聞いた世の女性たちは、「所詮、男はそんな生き物よ」と思うかもしれない。しかし、これは男性が女性の顔写真を選んだから起こった現象ではない。人は不思議なほど、自分の選好理由を知らない。もっと言えば、自分自身を知らないのである。自分のことを知らないのだから、アンケートなどで他人から行動や考えの理由を聞かれても、本当の理由は答えられない。客観的に人を知るというのは意外なほど難しいのだ。

[注1]Petter Johansson, Lars Hall,”Sverker Sikström,Andreas Olsson, Failure to Detect Mismatches Between Intention and Outcome in a Simple Decision Task,” Science, Vol.310, 2005 Oct.
 
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