共感こそイノベーションの原動力である

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 この考えを胸に、彼は3つの市で映画館を借りるよう手配し、20を超える決起集会のスケジュールを回覧した。各会場のポスターに書かれたテーマは、「仕事に心を込めよう(Bring Your Heart To Work)」。翌数週間にわたり、週末にレイクランド・ヘルスのほぼ全スタッフがどれか1つの決起集会に参加した。CEOのメッセージは、シンプルだが意表を突き、その実行は困難に思えた。

「ここにいる誰も、顧客をたびたび失望させる組織で働きたいとは思わないはずです。私たちは現状よりもよい結果を出せるはずですし、出さなければなりません。ですから、いまから90日後に90パーセンタイル(上位10%)に入ることを目指しましょう。リソースの補充によって大きく改善するのは不可能なので、知恵を存分に発揮しなければなりません。

 患者さん1人ひとりの心に触れることで、満足度スコアを上げるのです。つまり、病気に対していかによいケアを提供しているかだけでなく、患者さんそのものをいかに大切に思っているかを、しっかりと理解してもらうのです。もっと愛情を込めることを学んでいきましょう。そのために皆さんには、新しく創造的なやり方で仕事に心を込める、という挑戦をしていただきたい」

 10〜20年の経験を持つ看護師やエックス線技師にとって、ケアの提供はルーチン業務となっている。だが、患者にとっては日常とは程遠いものだ。病院での滞在はどんな人にとっても、最も感情的になる体験の1つであり、その後何年にもわたり記憶される出来事である――CEOはスタッフにそう念を押した。

 フロリダ病院で実施された調査を借用して、彼は患者の病院滞在を3幕のドラマになぞらえた。第1幕は来院で、通常は痛みや恐怖、不安が伴う。次は入院中の治療期間で、不快感と退屈が交互にやってくる。そして第3幕の退院では、患者はしばしば「退院の準備ができていない」あるいは「見放された」とさえ感じる。

 スタッフに患者役を演じさせることで、CEOはドラマの各場面でいかに患者との愛情あふれるつながりを生む機会があるかを明らかにした。関心といたわりを示し、慰めと励ましを提供することで、絆が生まれるのだ。

 医療スタッフに、台本や研修プログラムは提供しなかった。その代わり、次のような課題を突き付けた。「患者と接する時には毎回、あなたが“誰”で、“何”をするためにそこにいるのかを伝え、心のこもった“なぜ”を分かち合うこと。たとえば、『トムです。あなたの包帯を交換するためにここにいます。なぜなら、お孫さんの結婚式に間に合うように、家に戻るお手伝いをしたいからです』」。心のこもった“なぜ”を表明する時には、患者の希望と不安をドラマの中心に据えなければならない。

 CEOは、90日間で120回の“回診”をした。すべての部門、シフト、施設に姿を現し、スタッフに「調子はどうだい?」と尋ねて回った。「心のつながりを持てたかな? ぜひその話を聞きたいね。もしまだなら、いますぐロールプレイをしよう。私が患者役を演じるから」

 当初は、スタッフの多くが心のこもった“なぜ”を思いつくのに苦労した。医療現場では常にいたわりが存在するが、それを特定の個人に合わせて示すことは、自然にできない場合もある。訓練が必要なのだ。「自分がうまく心をこめられたかどうか、どうすればわかるのでしょうか」――これがCEOに最も頻繁に寄せられた質問だ。彼はこう答えた。「患者さんの笑顔に表れます。声に表れます。相手があなたの手を握った時にわかります。そして最終的には、あなた自身の心で実感するはずです」

 次の数ヵ月の間に、2つのことが明らかになった。まず、すべてのスタッフが日々、常に患者に心を開かなければ成功は見込めないこと。たった1人でも態度の悪いスタッフがいれば、その他大勢による心を込める努力が水の泡になりかねない。意外なことではないが、現場のスタッフも管理職も、態度の悪い同僚に対して以前ほど寛容でなくなった。不適切な態度が原因で、最終的に職を辞すよう求められた者も少なくない。

 第2に、取り組みの焦点はナースコールへの応答時間や疼痛管理、退院計画などに置かれてはいなかったが、心のこもったコミュニケーションが根付くにつれ、これら従来の評価基準に関しても患者満足度が上がり始めた。ここに1つの教訓がある。こちらがより多くの愛情を示せば、相手はあらゆる些細な物事についても寛大さを示すようになるということだ。

 レイクランド・ヘルスでは間もなく、心のつながりに関する逸話がたくさん聞かれるようになった。ならば、仕事に心を込めているスタッフ全員に感謝の念を示す方法はないだろうか――CEOは一案を思いつく。

 まず、ささやかでも心のこもった対応を見聞きした患者とスタッフは、それを報告する。するとシニアリーダーが数分以内に、思いやりを実践したスタッフの元へ行き直接感謝を述べる。近くに居合わせたスタッフたちに、そのリーダーはエピソードをふたたび語って聞かせ、当人にお礼を述べ、その職員証にハートマークを付ける、という仕組みだ。やがて数ヵ月のうちに、レイクランド・ヘルス全体で6000を超えるエピソードが称えられ、6000を超えるハートマークが職員証に添えられた。

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