他人を出し抜くのではなく、失敗を共有する
パイロットとして叩き込まれた哲学

――JAXA宇宙飛行士・大西卓哉

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日本人初、民間航空機のパイロットから宇宙飛行士に選抜されて話題を呼んだ大西卓哉氏。宇宙に憧れ続けた少年は夢を叶えて、宇宙への切符を手に入れた。2016年には国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在が予定されている大西氏が、宇宙飛行士に選抜された時の想いや、初フライトに向けた意気込みを語る。インタビュー後編。
 

きめ細やかなリーダーシップで信頼を勝ち取る

――宇宙飛行士に選抜されてからは、英語やロシア語での密なコミュニケーションが必要になると思います。苦労されていることはなんでしょうか?

大西卓哉(以下略) パイロットの世界では英語力がそれほど必要とされません。なぜなら、ある程度言うことが決まっているからです。飛行中に限れば、宇宙飛行士も同じですね。たとえば、それほど流暢ではありませんが、ソユーズの訓練がロシア語でもまったく問題ないのは、そこでされる会話の内容がだいたい検討がつくからです。

 ただ、宇宙飛行士は普段から円滑にコミュニケーションを取れなければなりません。宇宙飛行士になってから6年以上になりますが、その間、NASAとJAXAそれぞれにマンツーマンで語学を教えてくれる先生がついてくれています。その意味では、環境は恵まれていると思います。また、普段の訓練はすべて英語なので日常生活が英語の訓練になっています。

――多国籍のチームにおいて、たとえば国と国の関係が緊張状態にあるとき、それを引きずるようなことはありませんか。

 ほとんどありませんね。それが私たちの関係に影響するようなことはないと思います。誰もそれを気にしていませんし、軌道上に行けば同じクルーとして一緒に食事も取るし、助け合えるところは助け合います。それは国際宇宙ステーション計画のよいところだと思います。

 非常に難解なミッションですので、そこではそれぞれの国の長所を持ち寄って協力することが大切です。国としてのバックグラウンドや利害関係による対立は一切ない。その意味では理想的な国際協調、国際協力の形だと思っています。

大西卓哉(おおにし・たくや)
JAXA宇宙飛行士
1975年、東京都生まれ。1998年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後、全日本空輸入社。2003年、全日本空輸運航本部に所属。2009年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)より国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として油井亀美也、金井宣茂とともに選抜される。2013年、ISS第48次/第49次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命される。
提供:JAXA/NASA

――油井さんは、リーダーシップとフォロワーシップの両方が必要だとおっしゃっていました。大西さんもそれを実感されることはありますか?

 はい。私は、どちらかといえばフォロワータイプだと思います。NASAでもリーダーシップの訓練があり、そこでは一定の評価をしてもらっていますが、どちらが向いているかといえば、やはりフォロワーシップだなと。ぐいぐいと、輪の中心でみんなを引っ張っていくというよりは、チームの一員として広く周りを見ながらリーダーを支えていくほうが性格に合っていると思います。

 ただ、もちろんリーダーシップを取る機会は絶対あるでしょうし、そのときは自分なりのスタイルでやっていくつもりです。たとえば、NASAで野外リーダーシップ訓練というのがあります。野外生活を送りながら10日間くらい、大きな荷物を背負って、チームで峡谷の中を練り歩いたりする訓練です。

 訓練では、日替わりでリーダーを代えていきます。その日ごとに、今日はここまで行かなければいけないとリーダーがプランニングして、水はここで補給できそうだ、この時点で予定地に到達できそうになければ、計画を変えてここでキャンプをしようなどを考えます。そして、そのプランにしたがってリーダーがチームを率いていきます。

 もちろん個人差はありますが、米国人のリーダーシップを見ると、計画段階ではそれほど細部にこだわらない印象があります。むしろそのときどきの状況に応じて、最適な判断をしていこうという人が多い。ただし、予定外の事態が起こったとき、米国人の判断力はすごいですよ。訓練だけではなく、たとえば国際宇宙ステーション(ISS)運用の現場で働いていてもそれは思います。他方で、事前にきめ細やかな配慮をするリーダーシップスタイルは、少なくとも私はあまり体験したことがありません。

 私の場合は、どちらかといえば、細かなところに気を配るようにしています。たとえば、長い距離を移動するのでペース配分は重要です。そのときはやはり、チームの中で最も体力がない人に合わせるべきです。疲れたなと思うところまで行ってしまうと効率が一気に下がるので、その少し前で休憩を必ず入れるようにしていました。

 休憩の取り方についても、米国人の場合は、「ちょっと休もう」と言って適当に話し込んだり、靴を脱いで乾かしたりと自由で、何時までと時間が決まっていませんでした。おもむろに「そろそろ行く?」となります。でも、休憩が何時までか決まっていないと、休憩時間の過ごし方も計画できませんよね。

 休憩が5分と短ければ、いちいちブーツを脱いで乾かすのも面倒くさい。でも、それが15分と決まっていれば、「靴を脱いでも、5分前にもう1回履き始めれば、みんなに迷惑かけずに15分後には出発できる」と計算できます。私はそれが大事だと思っていたので、常に予定を明確にするようにしていました。

 その結果、1日を終えた後の反省会では、「今日はすごくスムーズだった」と言ってもらえました。「お前はどんどん率いるタイプではないけど、そのリーダーシップスタイルは好きだよ」と評価してもらえたことは嬉しかったです。

 米国人には米国人の長所や強さがありますし、日本人にもそれはあると思います。国際間でチームを組むときには、日本人は日本人らしい長所や強さを活かすことで、十分にやっていけると思いました。

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