新興国企業はリスクテイクの達人

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新興国からグローバル展開に成功する企業(EMNC)には、いくつか共通項がある。その中でも特に目を引くのが、彼らの失敗を恐れない攻めの姿勢である。そこには、単に「リスクを取って挑戦しろ」という精神論を超えたメカニズムがある。今回は、新興国企業がなぜリスクテイクの達人なのかを考える。

新興国企業の失敗を糧にするメカニズム

 新興国企業(EMNC)は、失敗を必要以上に気にしない。変わり続ける世界では、あらかじめ正解を全てプランすることはとてつもなく難しい。大切なことは仮説を持った実験であり、多くのEMNCが社員の挑戦を後押ししている。しかし、単にリスクを取った挑戦が大切だ、という考え方だけなら、日本に限らずどの企業にとっても当然分かりきった話だろう。

 では、EMNCは何か特別な仕組みを持っているのだろうか。

 起業家精神を失わずに海外でも挑戦を続け、しかもリスクとリターンのバランスを取ることは、EMNCにとっても簡単ではない。実際に、例えば中国の飲料メーカー健力宝による1990年代の米国進出など、大胆に海外展開して失敗したEMNCの事例も少なからずある。しかし詳細に見ると、多くの成功したEMNCは、当たり前に見える失敗を糧にする術を愚直に実践している。特に重要なのが、3つの要素である。

1. 出発点となる「型」を決め、失敗しながら調整する
2. 小失敗は織り込んで現場に任せ、大失敗のリスクはリーダーがとる
3. 評価と学習を使いこなす

 以下、事例と合わせて順番に見ていきたい。

出発点となる「型」を決め、失敗しながら調整する

 第1のパターンは、国内で作り上げたオペレーションの「型」を海外に移植し、失敗を通じて各市場に合うモデルに高速進化させるものである。ここでは、最初の失敗は当然のステップであり、問題視されない。そこからどうやり方を進化させるかが問題となる。分かりやすい例が、メキシコの製パン企業であるグルポ・ビンボである。

 同社は、北米・中南米・欧州・中国の22カ国に展開する世界最大の製パン企業である。現在は13万人近い従業員を抱え、売上の約6割を海外市場で上げる。1945年にメキシコシティで創業し、生産の機械化で新鮮な商品を大量生産することで1960年代に急拡大し、1970年代からは菓子事業にも参入した。1984年からの海外展開では、当初米州で、後に欧州やアジアも含めて、30社以上を買収し徐々に地盤を拡大した。その後、2011年に米国最大手サラ・リーに対する約10億ドルのパン事業買収を成功させ、規模で世界一となった。

 グルポ・ビンボの成功には、前回登場したM&A活用のスキルも大きく貢献している。しかしそれに加えて、2つのポイントがある。

 第1に、同社は新興国ならではの状況に合わせた、質の高い製パン業のオペレーションを徹底して磨き上げている。パンは消費期限が短く、小売店の棚に常に新鮮な商品をジャストインタイムで配送する必要がある。そして売れ残りは廃棄され、メキシコではメーカーが損失を負担する。さらにメキシコを含む新興国では、地方で必ずしも近代小売や物流のインフラが整備されていない。

 そのため、要となるのが、生産拠点を統合最適化し、営業・配送インフラを自ら整備し、正確な需要予測を立てて生産計画に落とし込む能力である。これを数十年かけ徹底的に実践し、卓越したオペレーションの方程式を確立したことが、国内での圧倒的なシェアにつながっている。同社は米国その他の海外市場でもこの方程式を活用し、高効率のサプライチェーンを構築している。

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