デザインを民主的に決めてしまうと、
「美形」だが「魅力」のない車になる

——LEXUS INTERNATIONAL President・福市得雄

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2015年10月13日・14日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015」が東京で開催される。2014年よりLEXUS INTERNATIONAL Presidentを務め、またトヨタ自動車デザイン本部本部長でもある福市得雄氏は、いかなるブランド戦略、デザイン戦略でレクサスを牽引してきたのか。その哲学が語られる。インタビューは全2回。(写真/鈴木愛子)
 

人は「美形」より「魅力」に価値を感じる

福市さんがかつて、民主的にデザインを決めていても、おもしろいものはなかなかできない、という趣旨のお話をされていたのが興味深かったです。どのような意図があるのかをお聞かせください。

福市得雄(以下略) たとえば、親が自分の息子に対して、この学校に行け、これを勉強しろ、この会社に入れと、いわゆる“いい子”に育て上げようとしますよね。そうすると何が起きるかといえば、いわゆる「草食系男子」が育つわけです。女性にも男性にも、誰からも嫌われない。でも一方で、誰からも結婚してほしいと言われない、空気みたいな存在です。悪いところはないけど魅力もありません。

 よく言うのですが、「美形よりも魅力」なんです。私は37年前に結婚しました。当時は、妻の容姿を「きれいだな」と思って結婚しましたよ。こんなこと言うと「あんたに言われたかない」と怒られると思いますけど(笑)、若さ特有の美しさは徐々に失われます。でも、なぜ37年も一緒にいるかといえば、相手の中に魅力を探し求めて、それを実際に見つけているからです。美形だけを追い求めたら、離婚してしまうでしょうね。

 人の価値観において、対象が美形であるかどうかは重要ではありません。しかし、集団の合意をもとに民主的に決めたデザインは美形にはなりやすい。それでも問題はないかもしれませんが、それだけでは魅力は見出しにくいのです。

コンピュータで顔の平均を算出すると、国籍を問わず、いわゆる美形になると言いますよね。クセのない顔になる。

 そうそう。ファッションショーで100人のモデルが通り過ぎて行っても、彼らのプロポーションは抜群で顔立ちも整っていますが、誰がいたかは覚えていません。ところがハリウッドスターの場合、たらこ唇だと言われたり、暑苦しいひげ面であったりしても印象に残っている。これはブランドです。そこに魅力を感じる人たちが彼らに憧れる。まさにオンリーワンの世界ですね。

レクサスでも、かつては民主的にデザインを決めていたのですか?

 オリジナルアイデアはデザイナーが出しますが、最終デザインを決めるときには審査会を開き、80~100人のパネラーから意見を聞きます。たとえば、デザインを見た人から「ヘッドランプの形がやさしい」「グリルが大きすぎる」とさまざまな意見が出ると、「グリルが大きすぎると言った人が何人いた」と、代表的な意見として残していました。

福市得雄(ふくいち・とくお)
Lexus International President、トヨタ自動車デザイン本部本部長
1951年生まれ。1974年、多摩美術大学美術学部立体デザイン科プロダクトデザイン専攻を卒業し、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。1999年同社第3デザイン部部長、2003年同社デザイン統括部部長を務める。2008年関東自動車工業株式会社に転籍。2011年トヨタ自動車デザイン本部本部長就任。2014年にはLexus International Presidentにも就任し、現在に至る。

 それを見たデザイナーは、それならとヘッドランプをシャープにして、グリルも小さくする。でも、なぜグリルがでかいと感じたのか。ヘッドランプがでかいからそう感じたのか、全幅が狭いからなのか。そのまま小さくすると個性がなくなるので、グリルのサイズはそのままで周りをどうすればよいかを考えられるのはデザイナーだけなんです。そうしたことを考えずに言われるがままに直していった結果、車の世界にも草食系男子ばかりが生まれていた可能性が多々あります。

「日程が決まっている」「次で決めなければダメだ」と言われたからと、コメントそのままに直すのは簡単です。また意見を言った者からすれば、意見を取り入れてくれたからそれまでよりいい評価をするのは当然です。でも、その時点で個性がなくなってしまう可能性があります。そこには車を所有する立場に立った人はいません。全員が担当者になった結果、ビジネスライクな判断だけを下すようになってしまいます。

デザイナーにはそれをつくった意図も、想いもあるわけですよね。

 そうなんです。でも、その想いをどんどん捨てていくんですよ。広告代理店でもそうですよね。「クライアントが言うから」と言われて修正するわけです。言われたら変えざるを得ない。採用されませんからね。そうして誰がやったかわからないものができあがります。

 その結果、市場からは「まったくおもしろくないデザインだ」と批判されて、担当デザイナーは「あのとき修正させられたから、個性がなくなってしまった」と他人事のように言うんですよ。いったい誰が責任者なんだと。意見を聞くことは大事だと思いますが、もっといい車をつくろうと思えば、お客様がどう思うかを想像することが最も大切です。

 パネラー評価はいまも続けていますが、評価の見方を変えています。生理的に受け付けないスタイルか、嗜好性の違いで嫌いと言っている内容か、人間工学的に直してほしいのか、それを見分けないといけない。たとえば、爬虫類の顔に見えて気持ち悪い、悪いものを連想するなど、生理的に多くの人が受け入れないものもあります。

 それは直す必要がありますが、どこを直すのかはデザイナーが決めるべきです。なぜなら、プロフェッショナルだからです。営業の人に線を引っ張って直してもらうのでしょうか。それはないでしょう。責任を棚上げしているだけですよ。

 私は、パネラーにも販売店の営業担当者にも、「印象を言ってほしい」と伝えています。「カッコ悪い」と言ってくれたほうがよっぽどいいですよ。「人相が悪いから嫌い」「個性が強すぎる」とか、漠然とね。解決策はこちらで考えるので、お客様の気持ちになって印象を言ってほしいのです。

実際に、ここ数年のレクサスにおけるデザインの評価は高いと感じます。デザインの方向性も福市さんが先導しているのでしょうか?

 いえ、私はデザイナーの背中を押しただけです。デザイン部門には2009年から役員不在で、私が来るまで各部長が責任者としてやっていました。彼らにもやりたいアイデアや方向性はあったものの、会社のシステムの中でトップから修正願いが出たら、立場上対応せざるを得ません。弱い立場でした。

 それを「行け!行け!」と背中を押したのが私であるだけです。「どんなアイデアをやりたいの?」と聞いて、「こんなことがやりたい。でも個性的で受け入れられないでしょうね」と言われたら、「援護するからやってみろ」という感じです。クラウンのデザインを決めたときに「1時間くらい見ていれば慣れますよ」言ったら、笑いが出ましたけどね(笑)。でも、その後別の役員から「たしかに2時間見ていたら慣れた」と言われました。

 あくまでアイデアは君たちが考えなさい。その提案がチャレンジングだと思ったら援護する。それだけです。ただし、守りに入っているものにはダメと言います。挑戦的な提案をするからには、攻めていなければならない。「そんなものでいいと思っているのか?」と、デザイナー自身の評価基準をできるだけ引き上げることは重要です。

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