ハーバード・ビジネススクールは、
オンライン教育に邁進するか

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IT技術の進展は、教育における物理的制約を除きつつある。従来型の一か所に生徒が集まらなくても、オンラインでの教育が可能になりつつあるのだ。この流れに、ケースメソッドを中心としてきたハーバード・ビジネススクールはどのように対応するのか。副学長のルイス・ビセラ教授に聞いた(構成・新田匡央)。

 

HBSは世界中から人材を集め、ボストンに「小宇宙」をつくる

編集者(以下色文字):ハーバード・ビジネススクール(HBS)のグローバル化の現状について教えてください。

ルイス・ビセラ(以下省略):まず、学生が多様化していることが挙げられるでしょう。実に35%の学生がアメリカ以外の国から来ています。教授の指導も、学生がよりグローバルビジネスに興味を持つような指導法に変わり、学生のマインドセットがよりグローバル化しています。

ルイス・ビセラ教授
ハーバード・ビジネススクール副学長。専門はファイナンス理論。

 さらに「イマージョンプログラム(どっぷり浸かって学ぶ)」という、新興国に入って体験することから学ぶプログラムが用意されています。その1例が1年目の「フィールドプログラム」という必修科目です。学生がバックグラウンドや国籍を考慮して多様性を持たせた6人のチームを組み、新興国に8日間入ります。学生は現地の文化やマーケットを知り、現地の人が何を考え何を求めているかを知るために現地の人々と話し、現地を歩き回ります。そこで得た理解をベースに、パートナー企業の商品を現地の人に提案し、使ってもらうという体験から学びを得るのです。

学生の国籍が多様でなければ、多様なチームは組めません。35%がアメリカ以外の出身とおっしゃいまいしたが、優秀な人を選んだらたまたま35%になったということですか。

 採用に関する具体的な内容についてはお答えできませんが、世界中からタレントを集めようとしていることだけは明言できます。世界中にHBSは雲の上の存在ではなく、若く才能があってリーダーシップのポテンシャルのある人にとって手の届く場所であることを知っていただきたいのです。

 他のビジネススクールは多くの国にキャンパスをつくり、そこで教育する戦略を展開しています。しかし、これではさまざまな国の学生が交わることができません。HBSは世界中から優秀な人材をボストンに集め、そこで「小宇宙」をつくります。そこで多様な人材が交わって学べるからです。その多様性は、国籍だけでなくこれまでのビジネス経験、文化、性別も含まれます。多様な人がひとつの場所に集って学ぶ環境を提供するのが、HBSの重要なグローバル戦略なのです。

 ただ、多様な学生を集めても、そこで教えるのがすべてアメリカ企業のケースではグローバル戦略として不十分です。そこで、HBSではグローバルナレッジを学べる工夫を凝らしています。

 扱うケースは、アメリカ企業以外のグローバルなケースが60%を占めています。しかも、そのほとんどのケースは、教授が実際にその国や企業に行って取材し、自ら肌感覚で理解した「フィールドケース」です。単に資料だけを読んで書いたものではありません。さらに、東京、上海、香港、イスタンブール、ブエノスアイレス、サンパウロ、パリ、ムンバイにリサーチセンターを設け、世界中からベストプラクティスを集めています。地域でのリサーチを増やし、ベストプラクティスを集めることでさまざまな国の文化や制度を知り、組織体系や環境によって変化することを教えるのです。

学生をひとつの場所に集めるのはコストがかかります。これだけ通信インフラが発達した時代にあえてそうした道を選択しているのはなぜですか。

 学生が集まり、みんなで毎日3つ、2年間で500のケースを読み込む経験は、他の方法で置き換えることができせん。クラスで生まれる即興的なもの、自然に発生してくる学び、学生同士のボディランゲージなどは、モニター越しでは再現できないのです。実際、そのことに学生も価値を感じています。そもそも、授業には2種類の教え方があります。ひとつは教授の話を聞いて理解し、帰って復習するというリアクティブ(受け身)型です。この形式であればオンライン授業にリプレイスすることは可能です。しかし、HBSのクラスはすべてプロアクティブ(能動的)型で展開されます。学生はあらかじめケースを読み込んで問題を深く考え、クラスでは仲間と必死に議論します。そこからの学びは次のケースにも生かされるので、自分なりの復習はもちろん必要です。こうしたプロアクティブ型の教育はオンライン授業で置き換えることができません。しかも、プロアクティブに学んだものは記憶として長く残り、リアクティブに学ぶより学びの質が高まると信じています。

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