Going Digital 社会、市場のデジタル化を日本企業変革のチャンスにする

「ジェネラルパーパス・テクノロジー」としてのIoT

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昨年あたりから、IoT(Internet of Things)という言葉が、既存のメディアにも頻繁に登場するようになってきた。その実態はデジタル化にすぎないが、製造業にとどまらず、あらゆる産業に時間をかけながら、確実に大きな変革をもたらすと見込まれている。IoTが拓く未来社会とIT人材の重要性などを、東京大学先端科学技術研究センターの森川博之教授に伺った。

「IoT」に名称が変わり、自分ごとと考える人が増えた

――これまでさまざまなIT用語が出てきましたが、モノがインターネットにつながる「IoT」は、何が違うのでしょうか。

  「IoT」の実態は、単純なデジタル化、もしくは「IT化」とか、「ICT化」と言われているものにすぎません。重要なのは、名称が変わったことで、ITを取り巻く雰囲気がガラリと変わったことです。「IT化」とか「デジタル化」と言われていた時には、多くの人は「自分には関係がない」、もしくは「単なるコスト削減ツール」というとらえ方をしていました。しかし、「IoT(モノのインターネット)」と呼び方が変わったとたん、「モノだったら、うちでも関係ある」といった具合に、いろいろな業界の人がプラスの意味で興味を持つようになったのです。

森川博之(もりかわ・ひろゆき)
東京大学先端科学技術研究センター教授
1992年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1997年、同大学大学院工学系研究科助教授。2006年、同大学大学院工学系研究科教授、 2007年より現職。ビッグデータ時代の情報ネットワーク 社会のあるべき姿、情報通信技術がつくる未来社会について、明確な指針を与えるべく研究に取り組む。

  モノとインターネットがつながる「IoT」の最大のポイントは、センサーを通じてモノからさまざまなデータを集められるようになったことです。たとえば、私の研究室では、橋のモニタリング、風力発電設備の羽や機械部分のモニタリング、毛色の違ったところでは農業のモニタリングなどをしていますが、そのためには、現場の協力が欠かせません。さまざまな業種の人が「IoT」に興味を持つようになることで、現場の協力を得られる分野が広がっていったわけです。

――「IoT」によって、具体的に何ができるのですか。

  もっともわかりやすい例はゴミ収集でしょう。ゴミの量を知らせるセンサーをゴミ箱に取り付ければ、ゴミがいっぱいになるタイミングがわかります。町中のゴミ箱のデータを集めて、ゴミの量が増えるパターンを分析すれば、どういうルートで、どういう時間帯に回収するのがもっとも効率的かがわかります。このようなモニタリングとデータ分析によって効率性を上げることが典型的な使い方です。

 ユニークな使い方をしているのは、スペインのお笑い劇場です。入場料を無料にして、笑った回数に対して課金するというシステムにしたのです。価格は1回笑えば30セント。上限は30ユーロです。笑った回数のカウントには、前席に埋め込んだタブレット端末のカメラの笑顔認識機能を使っているそうです。結果、売上げは3割アップ。顧客の満足度も上がりました。

  一方、アメリカのスーパーの「ターゲット」では、買い物行動によって妊娠を検知しています。検知するために、同社は、まず、購買履歴を分析して、妊娠した時に購入傾向があるもの、出産が近づいた時に購入傾向があるものを明らかにしました。そうした商品を購入している人は妊娠していたり、出産間近である可能性が高いというわけです。

――いろいろな使い方がありますが、「IoT」に取り組みたい企業は、まず、何から始めればいいのでしょうか。

  自分の作業や周辺の作業を「データ化できないものだろうか?」という視点を持つことです。注意していただきたいのは、ゴミ箱の例でも、お笑いの例でも、スーパーの例でも、理論的には大勢の人間を投入して地道に取り組めば人力で実行が可能だということです。おそらく「IoT」で取り組むことの99%は人間ができることでしょう。ですから、たとえば、「仮に100人スタッフを増やしてくれれば、こんなことができるのに」「わざわざ人力で、こんな作業をするのは非効率」といった現場の人のアイデアや疑問や不満が、どんなデータ収集をすればいいのか検討するヒントになるわけです。

  もちろん、これまでITやICTなどに関わってこなかった人は、どんなデータをどういうふうに取るのかはわからない。ですから、私たちのような研究室が一緒になって取り組むわけです。たとえば、現在、化学工場などで使われている巨大なバルブのモニタリングをしたいという課題が持ち込まれています。バルブは頻繁に点検が必要なので、何とか自動化したいというわけです。そのためには、まず、バルブにセンサーをつけてデータを取るのですが、問題は何のデータを取るのかです。音なのか、振動なのか。あるいは原子力発電所のような場所では放射能なのか。そういうところから考えていくわけです。

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