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IoT、データ活用が創出する新しい価値

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情報通信技術の進化により、あらゆる分野で新しい価値創造が可能になりつつある。価値創造の本質は、未来社会の実現にかかわる課題の発見とその解決であり、成功にはトップのリーダーシップが欠かせない。IoT、データ活用がもたらす大変革に企業はどう対応すべきか、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の稲田修一氏に聞いた。

見えなかったものを見える化し、課題解決に結びつける

――ビッグデータやM2M(Machine-to-Machine)、IoT(Internet of Things)といった新しい情報通信技術の登場は、第3のデジタル情報革命とも称されています。いま、いったい何が起きているのでしょうか。

  人工知能(AI)に代表されるコンピューターシステムの進化に伴い、実世界のさまざまな事象を把握し、収集・集積したデータを分析し、従来より迅速、かつ正確に認識・理解・判断を行うことができるようになっています。そして、この結果をフィードバックし、実世界の事象を高度、かつ精密に制御することが可能になりつつあり、これが新しい価値の創出につながっています。

稲田修一(いなだ・しゅういち)
東京大学先端科学技術研究センター特任教授
1979年、九州大学大学院工学研究科修士課程修了。1984年、米国コロラド大学大学院修士課程修了。2006年、独立行政法人情報通信研究機構理事。 2008年、総務省近畿総合通信局長。2010年、同省大臣官房審議官。2012年より現職。社会の持続的な成長や発展を可能とするイノベーションの創造に向けて、新しいICTシステムやサービスの実証を推進している。

 具体例の一つに、IoTと人工知能技術の活用による大規模プラントの管理があげられます。NECは、中国電力の島根原子力発電所に「大規模プラント故障予兆監視システム」を納入しました。これは、多数のセンサーから温度や圧力、流量、振動などのデータ(プラントパラメータ)を収集して、集積したデータからAI技術を使い、プラントパラメータ間の相関関係などを分析・評価し、プラント異常の予兆を早期に発見するものです。正常時稼働時の動きを「見える化」するとともに、リアルタイムに収集するデータと比較して、いつもと違う挙動の発生をいち早く検知します。

 通常の管理方法では、各センサーの観測値に「閾値」を設定し、閾値を超えたときに警報が出される仕組みですが、この手法の問題点は、「数千個のセンサーを対象に閾値を設定するのは困難なこと」「異常が発生しても、ある閾値に達するまでは異常と判断されないこと」「閾値を低くすると、正常な状態を異常と誤って判定すること」などがあります。一方、AI技術を活用すれば、閾値を設定する必要がありませんし、閾値を超えるよりも早いタイミングで正常時からのずれを検知し、早期の異常発見が可能になるといった利点があります。

 データを活用したプラント管理が注目を集める背景には、設備の老朽化やベテランオペレーターの不足、システムの複雑化などによる事故件数の増加があげられます。こうした課題を解決するために新しい技術を活用していこうという動きが活発化しているのです。

――データを活用すると、ベテランのオペレーターは不要になります。AIの進化で、仕事を失うかもしれないという不安の声も大きいと言われます。

 英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らは「雇用の未来」という論文で、702の職種がコンピューター技術によって今後どの程度の確率で自動化されるかを評価しました。電話販売員、融資担当者は99%で、レジ係は97%、集金人95%、発電所のオペレーターは85%です。今後10~20年程度で米国の総雇用者の約半数の仕事が自動化されると唱えています。言い換えれば、自動化リスク確率の高い職種の仕事は、コンピューターが扱う領域に変わるということ。逆に、CEOやセールスエンジニア、余暇セラピストといった創造力が必要な仕事、交渉力や説得力が必要な複雑な仕事、手先や身体の器用さが求められる仕事はコンピューターによる置き換えが難しいとしています。

 IoT、データ活用が生み出す新しい価値とは、見えなかったものの見える化や、状況の迅速かつ正確な把握です。このことが、課題の発見と解決に結びついたり、過去の分析だけでなく、近未来予測を可能にしたり、部分最適ではなく全体最適を実現します。しかも、ありがたいことにデータ収集に必要なセンサーや通信モジュール、クラウドサービス、通信ネットワークの低廉化により、IoT、データ活用のコストも低廉化しています。

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