魅力的なインターネット広告は
テクノロジーとアートの融合から生まれる

——ヤフー執行役員・荒波修

2015年10月13日・14日、“マーケティングの神様”と称されるフィリップ・コトラー氏が中心となり、「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015」が東京で開催される。同サミットには、インターネットマーケティングの先進的存在であるヤフーの代表取締役社長宮坂学氏も登壇するが、同社は、どんなインターネット広告の未来を描き、いかなる戦略を実施しているのか。その最前線で戦うヤフー執行役員の荒波修氏に話を聞いた。インタビュー後編。(構成/加藤年男、写真/鈴木愛子)
 

データ偏重で無機質な広告では、
消費者に関心を持ってもらえない

荒波さんは、広告効果の数字的な測定を重視されると同時に、インターネット広告にはアート領域へのチャレンジが必要だともお話をされています。その真意をお聞かせください。

荒波修(以下略) 広告では、どれだけ消費者の注意を引けるかが重要なポイントです。しかし、消費者はいろいろな体験に慣れています。そのため、常に創造性を発揮して、消費者に驚きと共感を持ってもらえるようなクリエイティブを開発し続けなければいけません。

 たとえば同じバナーのフォーマットであったとしても、その商品のセールスポイントと価格だけが書いてあるようなバナーだと、インターネットユーザーに関心を持っていただき、さらなる情報を取得しようとそのバナー広告をクリックしようと思ってもらえません。その意味で、動画という新しいフォーマットは、アート領域へのチャレンジでもあります。

 インターネット黎明期はバナー広告自体が珍しかったため、掲載されているだけでクリックしてもらえましたが、いまはそういう時代ではありません。アート領域やクリエイティブ領域での取り組みが重要だと思っています。その点、テレビというメディアはそこに実直に取り組んできました。だからこそあれだけ大きな市場になり、たくさんの広告主の方に使っていただけているのでしょう。テレビには学ぶべきところがたくさんあると思っています。

インターネット広告の世界でアート的な要素を発揮するとは、具体的にどのようなイメージを持っているのでしょうか。

荒波 修(あらなみ・おさむ)
ヤフー執行役員
神奈川県出身。神奈川大学卒業。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。デル日本、日本ヒューレット・パッカード、日本ラドウェアなどを経て、2007年オーバーチュア入社。2008年、オーバーチュアの吸収合併によりヤフーへ転籍。リスティング広告事業の本部長などを経て、2013年4月より現職。

 たとえば、Yahoo! JAPANのトップページに掲載される「トップインパクト」という広告商品があります。これは両サイドを含めて全画面がジャックされるような広告です。クリエイティブにはそれほどこだわらずにバナー広告の延長としてつくられたものと、トップインパクトの商品特性をしっかり理解したうえでつくり込んだものとでは、ユーザーの反応がまったく異なります。また、その後に生まれる影響もずいぶん違うことが内部のデータからもわかってきました。

 せっかく多くの媒体費をかけて出稿いただくわけですから、クライアントに対しては、よりよい効果が得られるよう、もっとクリエイティブをよくしていきましょうという働きかけを行っていきたいと思っています。

従来のように仕組みだけで売れる時代ではなく、制作側にもクリエイティビティが求められる時代になったということですね。そうした人材はいかに確保すればよいのでしょうか。

 その人材はすでにヤフーの内部にもいますし、外部の人とのコミュニケーションを増やそうという努力もしています。ヤフーが毎年開催しているインターネット クリエイティブアワードにおいて、昨年「ヨルパネ!」という特別企画を実施しました。深夜の時間を使って、ヤフーが定めたレギュレーションを少し緩めた実験的な取り組みを行い、クリエイターの方々から作品を募集したのです。

 クリエイティブの領域でイノベーションが起きづらい要因の一つは、媒体側のレギュレーションにあります。そこで、深夜であればテレビでも規制が緩くなるように、インターネット上でも実験的な場を提供したのです。この場所を使って自由に表現をしてくださいと展開したところ、これまでの発想を覆すさまざまな作品が集まりました。

 社内のクリエイティビティを創発することでは、たとえば「トレンドコースター」があります。これは、Yahoo! JAPANのリアルタイム検索の結果をジェットコースターとして体感できるアトラクションです。キーワードを入力すると、そのキーワードの検索結果の推移がグラフで抽出され、グラフ上をジェットコースターで疑似走行しながら「トレンドの波」を体感することができます。

 また一昨年は、音声検索と3Dプリンタを組み合わせ、マシンに話しかけると、そのキーワードがそのまま立体物として出てくる「さわれる検索」を発表しました。これは、国際的な広告祭であるカンヌライオンズでも非常に評判がよく、二つの銀賞を受賞しています。このように、クリエイティビティを発揮できる人材を社内にも抱えるために、積極的な育成にも取り組んでいます。

アート領域の重要性を感じ、それを実践されているのはいつ頃からでしょうか。

 この3年くらいでしょうか。社長の宮坂がカンヌライオンズに応募しよう、と提案してからです。最近のインターネット広告では、「枠から人へ」がキーワードになっています。どこに広告を出すかではなく、誰に対して出すかということです。これは、オーディエンスデータの活用とアドテクノロジーの進化によってもたらされた変化です。

 もちろんデータやテクノロジーは大事ですが、それを偏重しすぎると無機質なものになってしまう。広告とは、時代を映す文化でもあると思っています。データだけですべてが決まってしまったら面白みがなくなるでしょう。それは広告の未来、可能性を閉ざしてしまうことにもなります。テクノロジー領域とアート領域が重なりあって初めて、広告が新しいステージに突入できると思っています。

 通信環境の制約から、データの重い動画のフォーマットは限界がありましたが、それは光回線によって大きく変わってきました。携帯電話についても、4Gの環境の整備に伴い、よりリッチな広告表現が可能になっています。今後も通信環境の改善にあわせてフォーマットの進化は続くでしょう。そして、テクノロジーの発展によって、必要な人へ、必要なタイミングで広告をお届けできる可能性が高まる。テクノロジーとアートはクルマの両輪の関係にあると思います。発展するには両方が必要なのです。

さらなる動画の発達によって、テキスト情報の重要性は低下するのでしょうか。

 弊社内もそうですし、世の中全般に言われていることではありますが、人々があまり文章を読まなくなっているのはたしかです。最近のニュース系のアプリも写真とタイトルがメインで、文章が長いものは敬遠されやすくなっている。おそらく、二極化が進んでいるのかなと思います。見た瞬間に理解できるのか、詳細なドキュメントを読み込むのか。いまは、その中間が抜けているようにも思います。

 このように、これまでもインターネットの世界ではめまぐるしく環境が変わり、それにともないテクノロジーや表現手法も進化してきました。そのようなインターネットの時代に、10年先を考えるのは難しいかもしれません。しかしながら新しく大きな変化が起こりそうなとき、その変化にいかにしなやかに対応し、アクションを起こすことができるかが重要だと私は考えています。

 

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ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015

日程:2015年 10月13日(火)9:30~18:15
       10月14日(水)9:30~17:15
会場:グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール3F「北辰」(東京都港区高輪3-13-1)
登壇:フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授)、ドン・シュルツ(ノースウェスタン大学IMC名誉教授)、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)、岩田彰一郎(アスクル代表取締役社長兼CEO)、宮坂学(ヤフー代表取締役社長)ほか。
詳細http://wmsj.tokyo/
申込:お申し込みはこちらから。

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