モノ・コト創りの変化

【特別対談2】白井宏昌(建築家、滋賀県立大学環境科学部准教授)

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建築の世界で、建築物や街の「創りかた」に変化が起きている。その特徴は、参加型。あるいは「コミュニティ」といってもよいだろう。ユーザーの意思を最初から盛り込んだモノ・空間の創りかたの重要性が増していると言う建築家の白井宏昌氏に、建築界における進化と、そこから発想するビジネスやイノベーションにおける価値創造の可能性を聞いた。

「創りかた」が大きく変わりつつある

藤井 私自身、「イノベーション」というテーマで企業(事業)単位や都市単位での新たな価値創りに携わっているわけですが、ここ10年程度で、学術的見地からも、イノベーションの「創りかた」(創出手法)に関する研究は大きな進展を見せています。

白井宏昌
建築家、H2Rアーキテクツ協働主宰
滋賀県立大学環境科学部 准教授

ロンドン大学政治経済学院都市研究科博士課程より「オリンピックと都市」で博士号取得。国際オリンピック委員会(IOC)助成研究員、ロンドンオリンピックパークの設計チームメンバーを歴任。

 いわゆる「オープンイノベーション」という言葉に集約される、イノベーション創出の初期段階から実行段階まで、外部の様々なプレイヤーとオープンにコラボレーションして革新的な価値を効率的に創出していくための方法論が、分化・発展を遂げてきています。本対談の基本思想である「トライセクター イノベーション」もまさにこれに包含される概念です。
 建築の世界では、新たな建築物あるいは街の創りかたに変化はありますでしょうか。

白井 同様に大きな変化が起こっています。建築においても、「参加」が1つのキーワードになっていますね。
 ある建築家が建築物という成果物を作ってユーザーに使いなさいと与える、という従来型の構図ではなく、作る前からユーザーが建築のプロセスに参加するようなシステム・プラットフォームを提供していくことが大事であると考えています。すなわち、ユーザーの意思を最初から盛り込んだモノ・空間の創りかたの重要性が極めて増してきていると思います。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定、社会課題を起点にした新事業創造等のコンサルティングに従事。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。

藤井 おっしゃるとおり、いままでの創りかたは、自ら数年間あたためて創ってきたものを最終的にユーザーに与えるという形でした。これが創造プロセスの初期段階からユーザーなどを巻き込むオープンな動きがすでに必須になってきているのですね。その背景には、あまりにも市場の変化が速い中で1つの同質化した組織のみで行う新たな価値創出が限界を迎えているという市場の要請と、SNSやスマートホンなどデジタル技術・サービス側の進化による実現容易性の高まりの2点があると捉えています。
 この動向にいち早く対応している企業の例で言えば、ベンチャー企業と共同で新たなビジネス上のイノベーション創出を図ったり、イノベーションセンターのような、顧客やパートナーを呼び込んで一緒に創発する “場”を造る動きや、アイデアの初期段階から潜在顧客を見つけ出し製品・サービス自体を走りながら創り上げていく「リーンスタートアップ」の手法のインストールなど、多くの企業が、イノベーションの創りかたの引き出しを増やそうと取り組まれています。

白井 建築の世界で、オープンな創りかたのロールモデルのような建築家がいます。私がオランダの建築事務所に所属していた際のボスである、レム・コールハース氏です。彼は20世紀の建築を変えたとして評価されている、世界的にも著名な建築家の1人であり、オープンシステム型の建築家と言えます。

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