ザッポスが「管理職のない会社」に挑戦する理由

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管理職が存在せず、自己管理するチームによって自律している組織がある。最近「ホラクラシー」を導入したザッポスもそれを目指す1社だ。しかし筆者によれば、「リーダーの不在」と「全社員が従う文化の形成・維持」を両立することは非常に困難であるという。

 

 ラルフ・ステイヤーは1980年代の初め、家業であるソーセージ会社ジョンソンヴィルの全従業員に、長文の手紙と200ドルの小切手を送った。彼がCEOに就任して以来、売上高は15倍となり利益は150%増えていた。従業員数も増え続けており、事業地域も拡大中だった。

 しかしステイヤーは満足していなかった。製品の品質と従業員の士気が、彼の求めるレベルに達していなかったからだ。ゆえにすべてを変えねばならないと、彼は決断した。

 手紙が告げたのは報酬制度の改革だ。それに伴い、全社的にヒエラルキーを撤廃し、自己管理・自己組織化によるチームを導入することも書かれていた。

 ステイヤーはこう宣言した。「会社の目的はお金を稼ぐことではない。メンバー(彼は「社員」という言葉を禁じている)の成長を後押しすることだ。イノベーション、顧客満足、利益はその結果として生まれる」。彼はまた、1990年にHBRに寄せた論考では次のように書いている。「人が潜在能力を十分に発揮できるよう手助けすることは、もちろん道義的責任ではあるが、ビジネスにとってもプラスになる。人生とは成長だ。学習と努力を欠かさない人は幸せであり、良い仕事をし、自発性と想像力に富んでいる。そのような人々が働く会社には隙がない」

 従業員の成長を助けることが自分の役割であると気づいたことは、自分のキャリアの中で最も重要な瞬間であった、と彼はのちに語っている。

 最初のうち、改革は一筋縄にはいかず歓迎もされなかった。ステイヤーは自分に従うことしかしない上級マネジャーを2年間で3人解雇した。CEOへの服従(自主的な意思決定の放棄)は、彼の掲げたビジョン――「全従業員がみずからの仕事と製品に責任を持ち、会社全体を背負う組織」にそぐわなかったからだ。

 ステイヤーは間もなく、マネジメント専門家の間で注目の的となった。ジョンソンヴィル・ソーセージ・カンパニーを先進的な企業の指針となる組織へと変革した奮闘記は広く紹介され、ハーバード・ビジネススクールのケーススタディとしてベストセラーとなった。

 私自身も長年、このケーススタディのおかげで講義を実りあるものにしてきた。ケースをどう提示しても、受講者がどんなに地位の高いマネジャーであっても、議論の行き着く先は決まっていた。安定した事業を突然のように変革したステイヤーの動機についてだ。

 変革の理由は何だったのか。

 あるマネジャーは、「賢明な変革だが、結局は表面的なものだ」と主張した。従業員のやる気を高めて精力的に働かせ、自社の利益を押し上げる――そのための計算された戦略であり、他には目的などなかったという意見だ。別の受講者は、より深い部分での価値観の変化だと見なした。彼が経験した地域社会との関わり、人生の中年期に差し掛かっていたこと、あるいは宗教的信念などによって、企業はより大局的な目的を追求すべきだと考えるに至ったのかもしれない。また、彼がやったのは巧妙かつ身勝手な実験であり、自社に注目を集めて自己満足するための策略だと見なす人もごくわずかにいた。

 懐疑的なMBAの学生たちを、教室でステイヤーが魅了する様子はビデオ教材になっている。前述のように、自身のリーダーとしての軌跡を論考にまとめHBRにも寄せている。受講者にそれらを見せると、感想は「謙虚でカリスマ性がある」というものから「不安に駆られた、きわめて自己中心的な人物」に至るまでさまざまだった。

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