ターゲットは「誰か」(Who)で終わらず、
「どこにいるのか」(Where)に翻訳する

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ジョン・ハワード首相(オーストラリア)が長期政権を築いた際の立役者であり、逆風にある幾多の候補者を当選に導いたのが、選挙ストラテジストのリントン・クロスビーである。その戦略から見えてくるものは、単に選挙に勝利する方法ではなく、ビジネスを成功に導くための定石である。本連載では、筆者が選挙対策の中枢を担った英国・ロンドン市長選をケースに、戦略の本質を解き明かす。第2回は、訴求すべきターゲットは「誰か」(Who)にとどまらず、「どこにいるのか」(Where)に落とし込む重要性が語られる。
 

熾烈を極めた選挙キャンペーンの展開

 ロンドン市長選が中盤を迎えたある日の朝、私は、いつものように選対本部には向かわず、ロンドン中心地にあるターミナル駅の1つのキングス・クロス駅にいた。ボリス・ジョンソンにとって事実上の一騎打ちの相手である、ケン・リビングストンに対するネガティブキャンペーンのビラを配るためだ。

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ネガティブキャンペーンで配布したビラ

 配布するビラには、彼の公約の中心政策である公共交通機関の運賃値下げに関して、なぜそれができないのかが書かれていた。ターゲットは、通勤中のサラリーマンだ。多少の人種差別的な言葉や、「おまえ、保守党の手先か?」などという嫌みを浴びながら、淡々とビラを配り続けた。そして、すべてのビラを配り終えたところで、私は選対本部へと向かった。

 投票日直前の数日は、選挙対策本部としての仕事は非常に少ない。そのため、それまでは選挙対策本部で仕事をしていたメンバーも、ほぼ全員が前線でキャンペーン活動を行うことになる。

 最終週のある朝、私は、ロンドンを走る2階建ての公共バスを改造した「バトルバル」(日本の選挙カーの位置づけ)に、選対本部のメンバーと朝から乗車していた。

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ボリスの「バトルバス」

 バスにはロンドン中心地から乗り込んだが、だんだんと都心を離れて東へと向かう。かなりの時間を車中で過ごすことになったため、だんだんとウトウトしてきた。だが、バスが止まり、ボリスが中に入って来ると、眠気が吹き飛んでしまった。

 ボリスはいつもの調子でジョークを飛ばして、メンバーを沸かせる。「今日はブロムリー(Bromley)だから嫌な気分になることもないし、気持ちよく仕事できるよ!」と笑いを誘った。ブロムリーは、ロンドンにある特別区の一つであり、ロンドン市のもっとも東に位置する。伝統的に保守党が非常に強い地域だ。

 バスから降りた我々は、3、4人が一組となり、渡された地図を片手に、担当地域を周りながら、このときもビラをポスティングしていった。ただし、その時に配っていたビラは、リビングストンに対するネガティブキャンペーンのビラではなく、ボリスの9ポイント・プラン(9つの公約)が書かれたポジティブキャンペーンのビラである。

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